第2話、其のメイド……師範の教えを乞う

「マルコ、よく聞いてください」


「はい」


「私は、女神ジルダです」


「えっ」


「お役目により、ルイージを産み、今日まで守ってまいりました。

私は明日、天に帰ります」


「ど、どうして……」


「ごめんなさい。

天帝の決められたことなのです。

でも、この世界にあなたをサポートする存在は他にもいます。

あなたは、彼らを見つけ出してルイージが魔王を倒す手助けをさせてください。

出会えばお互いわかるはずです」


「そんな……」


「私が消えることで、邪なるものたちにルイージの存在が察知されるでしょう。

この屋敷の中にいる味方は、夫とリュウ師範です。

そして、この屋敷自体が聖の結界、つまり東西南北の教会の中心にありますので、それが崩れない限りは守りの中にあります。

どうか、この子をお願いします」


「は、はい……」



翌日、奥様は消えました。

まるで、最初からいなかったかのように誰一人不思議に思わないんです。

多分、意識層に働きかける何かが行われたのでしょう。


そして、私は侯爵様からこう告げられます。


「今日から、ルイージと共に奥の離れに移ってくれ。

屋敷には替え玉を用意し、リュウ師範に警護させる。

それから、万一襲撃があった場合、ルイージを連れて逃げるんだ。

この空間収納マジックバッグを渡しておく。

中には、当面の食料とルイージの装備品。

それとここを出た後の行く先が記してある。

必ず肌身離さず持ち歩くように」


「結界で守られていると伺いましたが」


「先に、どこかの教会が破られれば結界は消える。

時を置かず攻められれば、危ういのだ。

奥の離れには、外に通じる抜け道も用意してある。

そのへんは、リュウ師範から確認しておくように」



私は、リュウ師範から抜け道を聞き、いざという時に備えることにした。

それから、リュウ師範の手ほどきを受ける。


「よいか、女子のみでは腕力でどうしても劣ってしまう。

身体強化と高速移動を併用しているようだが、まだまだじゃ。

試しに、わしに打ち込んでみなさい」


トンファーの一撃は、リュウ師範の指で受け止められてしまった。


「速度を活かすなら、こういう戦い方もある」


リュウ師範の姿が二人、三人と増えていく……


「移動と停止を繰り返せば、このように相手の目をくらますこともできるじゃろう」


リュウ師範は後ろから私の後頭部を小突いた。


「じゃが、相手との速度差がないと利かぬから、足を鍛えなさい」


師範の示した訓練は、数十本の杭の上を素早く移動することだった。

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