第21話 指輪とプロポーズ2

 プロポーズするにはタイミングが大事である。

 ともかく彼女の酔いが覚めるのを待とう!そして寝かせるな!!


「ここの庭園は見事ですね、庭師のリュークさんが頑張ってますね!」


「うふふ。そうですわね。眼鏡がある時は花達もくっきり見えて嬉しかったですわ。また壊されてボヤけましたけどぉ!クラース様がおモテになるからですわぁ!!」

 と少し膨れる。


「まだ怒っています?」


「………………もういいですわ…」

 しかし未練はあるようだ。

 俺はポケットの箱を取り出すタイミングを狙ってとにかく話を引き伸ばす。寝てしまわないように慎重に。

 しかしソーニャ嬢の目はトロンとしてベンチに座った俺にもたれかかる。


「ソーニャ嬢!こんな所で寝てはダメです!!ていうか起きて!!」


「私こんないい気分は初めてですのぉ…。クラース様も隣にいて、ザックも幸せ、皆も楽しそう。声で判ります…」

 段々と目が閉じていく。おいーーー!寝るなーー!ソーニャ嬢おおおお!

 これからプロポーズするんだからーー!

 流石に婚約者の顔を叩いたりするわけにはいかない!どうする!?


「ソーニャ嬢!寝てはいけませんって!」


「少し…だけ…」

 限界のようでスウスウし出したよ!!

 うわああああああ!!

 プロポーズ失敗いいい!!

 今日じゃないと意味ないのに団長達にももう言ってるし!

 失敗したとか言ったらどんなに笑われて馬鹿にされるか見れたもんじゃないよ!

 だから寝ないでー!!

 しかしソーニャ嬢は寝ている。

 参ったわ。


 するとそこへ侍女さんのギーゼラさんがやってきて


「あらあら…お嬢様ったらこんな所でお眠りに?風邪を引いてしまいますわ!クラース様、申し訳ありませんからお部屋までお嬢様をお連れ願えませんか?」

 と鍵を投げた。そして部屋を教えて去り際にボソリと


「既成事実」

 とニヤリと笑い、


「これが出来なかったら相当のヘタレだな」

 とか言っていた。

 いや、違うし!!今日はそ、そんなことよりプロポーズしに来たんだって!ぶっちゃけもうザックの祝いはもうどうでもいいからプロポーズだよ!!


 しかし渡された鍵とソーニャ嬢の顔を見てゴクリと良からぬ思考がよぎり思わず自分で自分の頰をベチンと叩いた。


 俺は仕方なくソーニャ嬢を抱き抱え部屋へと向かった。どうやって起こそう!?


 何とかソーニャ嬢の部屋を見つけ鍵を回して入ると良い匂いする!流石ご令嬢。

 ベッド広いね!

 て、違うわ!!

 何とか起こさないとおおおお!!だが、胸元に顔を寄せてスウスウ寝息がする。起きてえええ!!


「ソーニャ嬢!お部屋につきましたよ!!」


「スウスウ…」

 ダメだこれ??

 ソーニャ嬢をベッドに横たえて俺はバルコニーに出た。月明かりが優しく慰めた。


(残念だったな、クラース…またチャンスはある!それかもう襲って起こすか?)

(そんなことは騎士としてできるかっ!眠っている淑女を襲うとか最低すぎるから!!)

 俺はポケットから箱を取り出してため息をつく。


 いっぱい練習したのに…。

 すると願いが通じたのか後ろから少し寝ぼけたソーニャ嬢が声をかけた。


「クラース様??何をしていますの?ここ、私の部屋?いつの間に……ああ、夢ですのね…」

 と言い出した。

 夢でもなんでもいいか!

 千載一遇のチャンスに神に感謝した!!


「そうです!夢です!ソーニャ嬢!!」


「ですわよねー…」

 とソーニャ嬢はこちらに寄ってきていきなり首に手を回し抱きつく。

 ええ?大胆ですよ??


「夢の中なのにもっとはっきりとクラース様を見ないと…」

 と近くで観察される。

 そして指を俺の胸の部分でいじりくるくるし出した。


「クラース様…夢なのですから私に愛してると言って?」

 と言われてバクバクした。


 もうなんか覚えたこと忘れてきた。


「……もちろん愛してますよ?」


「本当ですか?」


「はい!騎士は嘘つきませんよ?」


「ならもう一回…」


「何度でも!…ソーニャ嬢!愛しています!俺と結婚してくれませんか!?」

 どうしよう、団長ばりのめっちゃ普通のプロポーズになったじゃん!!なんのひねりもないし、カッコいいプロポーズ言葉忘れたし。


 しかしソーニャ嬢の顔は潤み真っ赤になり震えて口元を隠している。俺はその手を左手で取り、ポケットから箱を取り出して開けて指輪を見せた。


「まぁ!なんて素敵な夢!!」

 まだ夢と思ってる。まぁ夢でもいいか。


 俺は慎重に左手で彼女の滑らかな手を取り腕は上がらないけど手首から先は何とか動くものの緊張で一回床に指輪が落ちた!


「ぎゃっ!!す、すみません!!」

 慌てて拾い、ハンカチで綺麗にキュキュと拭いた!!もうダメだ!落とすとか恥死案件だが、ソーニャ嬢はクスクス笑っていた。

 孫の代まで


「おじいちゃんったら私のプロポーズの時指輪落としたのよ?間抜けでしょ?」

 とか言われるヤツだわ!!

 くっそー!チャラチャラしてないと俺全然ダメだわ。


 気を取り直し指輪を嵌めてその指にキスした。


「ソーニャ嬢…俺と共に生きてくれましゅか?……あっ違う、く、くれますか??」

 めっちゃ噛んだ!!もうダメだ!!

 流石に恥ずかしくて俯いたわ!


 孫に


「おじいちゃんったら仕切り直して言ってくれたけど今度は噛んだのよ?結婚してくれましゅか?とかね?」

 孫の爆笑する姿まで見えてきた。


 ソーニャ嬢はブルブル震えて堪えていた。

 嬉しいのかおかしいのかちょっとわからないけどもういいわ!!

 ヤケクソ気味になっていると


「クラース様……夢でも本当に楽しいです!こんな素敵な貴方と毎日一緒にいられるなんて嬉しいことありませんわ!


 私いつも手紙で会えない時は切なかったもの!もちろんお受けしますわ!貴方と結婚します!そして私と伯爵家を支えてください!」

 と完璧な返事ができるソーニャ嬢は素晴らしい!!


 二人はどちらともなく笑い合い額をつけてキスした。


「ああ…本当に夢でなければいいのに…。目覚めたら忘れてしまいそう、目覚めたくありませんわ」

 えっ!まだ夢だと思ってます!??

 ええ?鈍い!!


 マジで夢だと思われてたらどうしよ?いやいや、目覚めたら流石に夢じゃなかったーーー!!って指輪見たら思うよね?

 そういうことでいいよね?


「ソーニャ嬢…それではベッドにお戻りください、風邪を引きますよ」

 と促し俺は彼女が寝たら部屋をソッと抜けるか!


 と思っていたらベッドに寝転がった彼女に裾を引っ張られた。

 ん?と思ってると妙に熱っぽい視線で


「クラース様…夢でしょう?行かないでください!」

 と言われて背中がゾクッとし出した。

 えっ!!?

 ええっ!!?


「いや、夢ですから、夢で終わっときましょう。お休みください」

 とカッコ良く去ろうとしたら


「ギーゼラがここでお嬢様を襲わないヘタレとは結婚後も上手くいきっこないって…」

 はあああ!?あ、あの侍女め!事前に何吹き込んでんだ!!?


「だ、ダメですよ、夢とは言え、婚前前ですからね?ソーニャ嬢!そ、そんな…」


 しかしソーニャ嬢が


「ああ、やはり夢の中でもクラース様は私を愛してくれないのかしら?」

 いやさっき言ったよね??


「いや、愛してますよ?す、すごくその…」


「でしたら…夢ですしどうぞ、私を好きになさって?」

 とボタンはずし出したよ!!

 も、もうダメだ!思えばこの部屋の匂いは少し媚薬が混じっていたのかもしれない!あの侍女め!!計りやがったな!?


 と感じつつも夢中になってキスしたりする。燃え上がる恋の炎と香の効果に押されて俺もとうとう童貞喪失かと思いつつ、彼女の首にキスした時、ハッと我に返り白狼に噛まれた自分の酷い傷を思い出して辞めた。

 ソーニャ嬢は夢なら傷も見えないですわと言ったが無理だわ。これ夢じゃないから。

 そのまま香を外に出して換気しつつもソーニャ嬢が眠るまで横で抱きしめて眠るだけに留めた。


 *

 朝、香の効果もなくなり


「きゃあああ!!」

 と言う悲鳴とともにベッドから落とされてしまう俺。もちろんヤバイ。

 びっくりして凝視しながら青くなったり赤くなったりしながら朝から俺を睨んでた。

 そしてソーニャ嬢は指輪に気付くと目が取れるくらい驚いた!!


「ひっ!はっ!はあっ!!?ゆ、夢じゃないいいいいいいいい!!!!!!」

 と絶叫した。

 そして俺を見ると赤くなりことさら謝った。


「なんてはしたないこと!!私夢だと思ってクラース様に…凄く恥ずかしいこと!!」


「いや俺もしましたし…一回指輪落としたり…噛んだりもうね、散々です。孫には黙っててください」

 と言うと


「何でそこで孫まで…子供をすっ飛ばしてますから!」

 と突っ込まれた。

 俺は彼女の足元に膝をついてもう一度指にキスして


「俺にはソーニャ嬢が隣にいることが幸せです。怒った顔も照れた顔も笑った顔も泣いた顔も全部俺が独り占めしたい!どんな宝石よりもお金よりも貴方が欲しいのでどうか結婚してください!………あ、昨日言えなかった台本みたいな練習したやつですこれ」

 と付け加えると笑いながら


「それ言っちゃうのがクラース様らしいですわ!もちろんお受けします!」

 と笑い胸に飛び込み抱き合う。


 こうして俺のプロポーズは無事に終わった。


「くれぐれも一回指輪落としたことは内密に!!」

 と念を押したが


「あら、どうしましょう?ふふふ!」

 と言われたから頭が上がらない。

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