第22話 クラースのマリッジブルー
結婚式に向けての準備に半年程かかる。婚礼衣装合わせや宴会用の費用の算出やら結納品としてルーテンバリ家の先祖が使ってたとか言う古い剣とか持っていくことにした。
父さん曰く
「ああ、もうこれ別にいらないだろ。古いし」
「御先祖様も新しい剣飾っといた方が喜ぶかも」
とか母ももはやゴミ出すみたいに言うし。
一応鍛冶屋に手入れしてもらいピカピカにはしたけど。
それと夫婦の寝室を新たに設けたり改築されてると言う話だ。オロフ伯爵からの領地経営の引き継ぎやらもされる。
仲間内からも内祝いをされ、酒を浴びる程無理矢理飲まされた。団長の部屋で寝ていたらまた勘違いされた。団長には蹴られた。
しかしそんな慌ただしい中俺は沈んでた。
「クラースどうしましたか?」
天使な副団長が俺の様子に気付いて話を聞いてくれた。
「なんて言ったらいいのか…結婚式が近づくにつれ不安で」
「大丈夫ですよ?団長は心が広いので貴方のことも祝福してくれます」
「いや団長のことはどうでもいいです」
「あ、そう…ではどうしたのです?迷える子羊よ」
と神父みたいなことを言う。
「………俺のこの右肩の傷…ソーニャ嬢が見たら倒れるかと思って…」
「そんなことを気にしていたのですか。確かに初夜では見られてしまいますね」
「…………中々見せることが出来なくて…ショックでしょう?可愛い俺にこんな醜い傷があるとか。服に隠れてるから普段は気にせずいられるけど」
「名誉の傷でしょう?」
「俺自身さえあまり直視できないのに」
するとフィリップ副団長は
「クラース気にし過ぎですよ?もし初夜で花嫁が倒れるか君が傷のことで悩んだまま夜明けが来るかです」
「ううっ」
と俺は圧倒的に後者のが強いかもと思った。つまり傷を見られることに抵抗がある。
「そんなに気になるなら前もって見せればいいでしょう…そしてダメなようなら婚約も結婚もなくなるだけです」
そしてフィリップ副団長はダークになった。
「そんな傷見たくらいで顔を背けるような女を好きになったのか?クラースてめえ、だとしたら見る目ねぇぞ?とにかくお前のそのグジグジしたナメクジみたいな考えを女に包み隠さず言ってみろ!言わなきゃ伝わんねーだろ!!」
とダークモードのフィリップ副団長にバシと背中を押された。ちょっと痛い。
「よし、クラース、ナメクジなお前の根性を叩き直してやるひひひ。訓練場に行くぞ」
とガシと首根っこ掴まれて引きずられた!!
「ええっ!?いっ、今からですか??もう深夜ちか…」
「ああん??」
と悪魔様が逆らうのかという目で睨まれ俺はすくみ上がりもうそれからは朝までめちゃくちゃ鍛えられた!!
「左手めちゃくちゃ動くな!」
「なんなら足でも靴履いてなければそこそこ!」
「チャラい家系なのにやるな、お前みたいなのが結婚していなくなるとは寂しいぜ」
と鋭い剣劇を受けながら会話する悪魔は寂しさのかけらも無く笑いながら言う。
この人なりの祝い方だろうな。
朝方やっと宿舎に帰って寝た。
昼頃にトントンと戸を叩かれて起きた。
「誰?今日は休みだよ?」
寝ぼけ眼で戸を開けるとそこに愛しのソーニャが籠を持ち立っている。
新しい眼鏡をかけていた。
「お久しぶりです。クラース様。お休みのところごめんなさいね。これは差し入れですわ」
「眼鏡が出来たのですね!!似合ってる!無いのもいいけど」
「怖い顔の私を好きなんて言うのはクラース様くらいです!…もう」
軽く頰にキスをすると籠のサンドイッチを頰張った。美味いなぁ!!
バンズにチーズとハムレタスが挟まりシンプルだけど美味しい。流石伯爵家である。シェフが優秀過ぎる。結婚してもいいもの食えそう…。
結婚か…。初夜か。傷か…。
と辿り着いてまた落ち込む。
「クラース様??元気がないですね?手紙でもなんとなく元気ないように思えて…」
彼女は目が見えない分相手の感情を読み取ることに長けていると思う。些細な声のトーンや文字の感じから印象を取るのだろう。
「心配してきてくれたのですね」
ソッと手を握るが、ソーニャは
「ええ、きっとクラース様は傷のことを気にしているのではと思って」
ええっ!?流石俺の婚約者!!
頭が上がらない。
「………男の勲章とか言われても醜い傷ですし…きっとソーニャが見たら幻滅…するでしょう」
「ではここで見せて頂けます?」
「えっ!!?やだっ!!」
咄嗟に言ったら眼鏡越しに睨まれた。
「クラース様?私が気絶すると思っていますわね?そんなに柔じゃありませんから!」
と服を掴み出す。払い退けることも愛しい人に対しては無理で、俺は上半身だけ脱がされてついに醜い傷を眼鏡越しに見られてしまう。
「まぁ…本当に酷い」
「だから言ったのに!!」
傷を左手で隠すと上から手を当てられる。
「クラース様…ほら気絶などしませんでしたでしょ?私はその傷は素敵だと思いますわ」
「は、はあああ!??こんなのが!?」
「大丈夫です。この傷があるから今生きててくれてると思えば!」
手を退けられ傷にキスをされてドキドキした。
あっ、婚前前なのになんてことを!!
そんなんされたらヤバイよ!
しかも俺の部屋で!!
しかしソーニャはにこりと笑い離れた。
「他の誰もがこの傷を酷いと言っても私は嫌ったりしませんわ。誇らしいです!」
天使じゃないのか??
恐れていたことにはならずほっとしている俺がある。同時に嬉しくて涙が溢れた。
「お、俺とても自惚れていたんだなぁ…。今までチヤホヤされ過ぎて醜い傷の出来た自分が許せなくて。鏡で見る度に毎朝落ち込んでいました。でもソーニャのおかげで自信がついてきました!ありがとうソーニャ!大好きです!」
と抱き締めると彼女は慌てた。
「だ、ダメです!クラース様!服着て!!も、もう判りましたから!!服を!!……」
と言ってるとガチャリと戸が空いて
「おいクラース、元気なさそうなら俺と気晴らしにとっておきの酒でも…」
と団員が入ってきて上半身裸で抱きついてる俺とソーニャを交互に見てとびきりの笑顔で
「邪魔したな!」
と言われて閉められた。
それから目を合わせるとクスクスと笑った。
「ソーニャ愛してます!」
と言うと彼女は真っ赤になり
「クラース様ったら!そんなことを言われると酔ってしまいますわ!やはりチャラいですわ!」
「ええっ!?ソーニャにしか言ってないのに?………まぁ眼鏡は酔うなら少し外しましょう。あ、キス以上は結婚してからまた!」
と言うと更に照れて
「もっ、もう!!ですから服を着てからにしてください!!傷は素敵ですが普通に意識しちゃいますわ!!」
と顔を堪えきれずに隠してプルプルするのでとりあえずささっとシャツを着て眼鏡をソッと外しキスした。
さっきまで気にしていたことが馬鹿みたいだ。
彼女が傷を見ても嫌な顔せず好きだと言ってくれたことも嬉しくて満たされていく。
ソーニャとずっと一緒に生きていきたいと心から誓う。
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