第20話 指輪とプロポーズ1

 俺は懸命なリハビリの末、少し右手や指などを動かせるまでになったが、どうもやはり右肩は思うように上がらない。


 医者に定期的に見せたが


「やはり右肩の傷の後遺症でしょうね。右腕を上げることは一生無理かもしれませんな。手首が動くようになったのは奇跡としか…」

 と神妙に言われ俺は


「えー?そうなんですかぁ??右手動かせるようになったし腕も奇跡起きんじゃないっすかね?」

 すると先生がピクリと怒った。


「あんた、人体を舐めとるのかね?クラース君ほどの傷の患者は一生半身不随となってもおかしくないのに!塞ぎ込んでしまうことも多いというのに…全く呑気な男だ」


「先生、別に俺は塞ぎ込んだりなんてしませんよ!先生こそ患者に不安与え過ぎですってー!もっと明るくいきましょー!」

 とへらへらしてると団長に頭を殴られた!


「このバカっ!お前先生になんて口聞くんだ!バカ!」

 2回言われたし。


 でもな…動く気するけどな。腕が噛みちぎられて喰われて無くなったのならともかく、酷い傷口だけどちゃんとくっ付いてて生きてるって思ったら俺の細胞だってきっと元気になると思うんだ!今はちょっと休んでるだけ!休ませとこうよたまには!


 って思っちゃう。

 医師のマーク先生と別れて団長と俺は並んで騎士宿舎に向かう。団長が…


「クラース…そろそろ騎士団を辞めて結婚して伯爵家を継げ。いつまで待たせてるんだ婚約者を。それともまさか領地経営の勉強を引き伸ばしているのか?」


「えっ!?い、いやそんな…ねぇ?まさかっ!」

 しかし団長は睨んだ。

 そう、そろそろ金は貯まってきた。

 婚約指輪を渡してプロポーズして結婚の準備をしなくちゃならない。


 しかし


「ヴァイダル団長は奥さんと結婚する時なんて言ったんですか?」


「何でそんなことをお前なんかに言わないといけないんだ!?ていうかそれこそ絶対に自分で考えろよ!!そして失敗は許されないミッションということを肝に命じろ!」


「え?失敗って?」


「例えばな、プロポーズする前に婚約指輪を井戸の底に落としてしまったり、緊張し過ぎてプロポーズの時かみまくって恥ずかしいことになったり、一晩中考えてた言葉をど忘れして結局「俺と結婚して幸せになろう」みたいな普通なことしか言えなかったりだ」


「なるほど…団長の経験談ヤバイっすね!だっせー!!」

 と言ったら団長は赤くなり殴られた。


 ふむ…まずはやはり婚約指輪買わないとだな!


 *


 そして休日俺は宝石店へとやってきていた。

 手を揉みながらやってきたが、俺が騎士だと判るとやはり態度を変えた。騎士は平民と結婚する場合も多いしな。


「どのようなものをお探しで?」

 と宝石店店主…青緑色の髪に白髪が混じった30代の男が対応した。


「ああ、俺は騎士辞めたら伯爵家に婿入りするんで…」

 と言うと明らかにそれまで見下していた態度を改めやがった!わかりやすい!!


「な、なんと!!次期伯爵様でしたか!早くおっしゃってくださいよ!!」

 とジャラジャラデカイ宝石を沢山出してきやがった。ちっ!

 やたらゴージャスな白い石が出てきた。

 しかもデカイ!!おいデカすぎる!成金ババアがつけるやつみたい!!


「もっと小さくて可愛らしいヤツがいいです」

 と言うと店主がちっと舌打ちしたのち、いくつかを持ってきた。態度悪いし!!

 それなりに可愛いものは確かにあったけど急速にここで買うのが嫌になったから適当に相槌を打ちつつ、


「ううむ…希望するものはここには無いみたいだ。すみません」

 と頭を下げてさっさと店を出た。

 それから似たような店を周り似たような体験をさせ、最後の宝石店へと向かった。

 今までと比べてだいぶ小さい。

 最近越してきたのか使ってないボロ屋を改築して何とか経営し始めたようだ。

 内装もこじんまりしており、貴族というより庶民向けなのかもしれなかった。


「いらっしゃいませ!」

 と地味目な青年が対応した。


「ちょっと指輪を用意したいもので…」

 と言うと青年はうなづいて直ぐに金庫から宝石を持ち、やってきた。店に出してるのはイミテーションの偽物らしく、盗まれてもいいようにしていた。偉い!


 小ぶりな可愛いものが沢山あり、どれも目を引いたが一際目を引くものがあった。中央のダイヤに色は無色透明なのはもちろん、周りのさらに小さな石は俺の瞳色がある。


 店主の兄ちゃんにこれにするというと兄ちゃん…セレナルドはにこりとして、


「結婚されるのですね、うちはあまり流行らないしお祝いにお安くしましょう!おめでとうございます」

 と言ってくれた。何軒か周ってこんなことを言われたのは初めてだし気に入ってここで買うことにした。結婚指輪はとてもシンプルなものでいいだろうか?結婚後二人で日常で付けるから婚約指輪よりかは控えめなデザインになるだろう。


 そう思うと婚約指輪って短い期間にしか嵌められないのかな?もったいなくね?と思うだろうがやはりここはビシっと贈らないとな!!

 それに結婚指輪とセットで付けてくれる花嫁さんもいると言うし。


 俺がいろいろ悩んでいるとセレナルドは


「こちらの婚約指輪とも花嫁さんが合うものにしましょう」

 と控えめなヤツを持ってきたからそれでいいかとうなづきついについに指輪を注文してソワソワとし出した。


 プロポーズはザックの工房の完成日にすることにした。


 その日は伯爵家でパーティーが行われる。

 ザックは大変喜んでいた。


 思えばソーニャ嬢と出会って一年経つ。元々お互い婚期を逃していたので気にならないけどあの日彼女と婚約破棄していたら今頃俺はまだ運命の相手探しで遊び周ってたんだろうか?

 そう考えるとやべえ、団長の言う通り話を進めていて良かった!と思う。


 それから指輪の受取日俺はニヤニヤして店を訪れて綺麗な箱に入ったそれに今度は涙した。

 セレナルドがそれ見て


「花嫁さんより先に泣かないでください。頑張ってくださいね!!」

 とプロポーズ成功を祈られた。


 それから必死に忘れないように言葉を考えてうんうん唸る日々が続き、団長にも練習台になってもらい、それを盗み見た同僚達にまたあらぬ噂を立てられた。


「やはりクラースと団長は愛し合ってたのか…」

「本当はクラースも団長と一緒になりたかったんだな…イケメンだしな団長」

「俺たちは暖かく見守ろう!」

 とか言われてる。


「お前らあああああ!!!」

 といつものように団長がキレながら剣を振り回している。これももうじき見納めだろうか?


 *

 そしてザックの工房が完成した。

 領地内の村から少し離れた場所に建てられており、彼はここからスタートするのだと張り切っていた。伯爵家で下働きをしていた時に文字を教えてもらい覚えてたので、いずれ、トーマスさんの所にも顔を出しに行ったのだそうだ。

 トーマスさんは存命でザックに会い、二人は感動の再会を果たした。


 大男のザックは奴隷印を消していた。そして今日は正装させられ緊張していた。


「奴隷の自分がこんないい服を着られるなんて…伯爵様には感謝しかないれす!!」

 と言うと、ソーニャ嬢の父のオロフ伯爵は


「うちの娘の眼鏡を作ってくるのは君しかいないからね!立派な眼鏡職人になって、王都の街にも店を構えられるように準備してるからそっちが完成したらビシュケンスの店に負けないように頑張るんだよ!?」

 と励ました。


「ありがとうごぜえます!旦那様!明日からお嬢様の新しい眼鏡作りを開始しますだ!!一番最初にお嬢様の眼鏡を作れて幸せだに!」

 と言うとオロフ伯爵は


「こちらこそ礼を言う。あの子は目が悪くて社交界やお茶会に参加しても友達ができなくてね…いつも怖い顔で痴態を晒さないよう気合をいれていた。伯爵令嬢としてふさわしい様に振る舞っていたが顔はいつしか固まりきつい顔になっていた。


 心にもいつしか蓋をかけた。無意識だろうが見合いの席でも何度も何度も失敗して、あの子の婿がクラースくんとなった時も正直期待はしていなかったよ…第一印象はチャラかったからね。


 だが、娘はそのうちいたしかソワソワとし出したり部屋に篭って手紙を書いたりするのが嬉しいようでこちらも安心したもんだ」


「お嬢様とクラースさんがご結婚されたらスペアの眼鏡を贈ります」

 とザックと伯爵が笑ってて握手した。

 そして


「皆!今日はザックの華々しい第一歩となろう!!彼の工房をよろしくな!!


 それではパーティーを存分に楽しんでくれ!!」

 ジャクは照れながら頭を下げて拍手が巻き起こり音楽が流れてきた。パーティーの始まりだ。

 ジャクは皆に囲まれて早速の注文を沢山受けていた。


 俺も酒を勧められたが一応断っておいた。これからソーニャ嬢にプロポーズするのにシラフじゃないと格好つかないというのに、ソーニャ嬢は誰かに酒を勧められて少し赤くなっていた!!目つきも座っていて少し酔ったか?不味い!


「ソーニャ嬢!飲みすぎてはいけません!少し夜風に当りにいきましょう!!」

 と何とか連れ出した。どうしよう!酔って何も覚えていなかったら!!

 でもすっごい練習したし!今日しかないぞ!!


 伯爵邸の綺麗な中庭のベンチに腰掛け持ってきた水を渡してみる。コクコクと飲み干して少しウトウトしているし!!不味い!寝てしまったら!


「大丈夫ですか!?ソーニャ嬢!?」


「……はい…私ザックが嬉しそうなのを見て嬉しいですわ。彼にはこれから頑張って王都一を目指してもらわなくてはですわ!ビシュケンスがあわあわしている所も見てみたいですわね」

 と悪い顔になる。

 でもやはり酔っているのか庭の花をブチィとちぎり取り笑いながら頭につけていた。可愛いけどぉ!!


「酔い過ぎですって!」


「クラース様にもつけて差し上げますわー」

 と俺の頭にも花を着けようとする。おい、こんな花を頭につけてからのプロポーズじゃ格好つかないぞ!そして結婚式の時に笑われるから必死で制した。

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