第18話 目が覚めてラブラブ

 俺は4日目に目覚めた。身体の痛み…特に肩は酷いことになりもはや傷口を確認するのが恐ろしくあえて見ないことにした。

 絶対肉喰われてるよ!!くっそ!!


 噛まれた腕に折れた足で俺は流石に入院した。


「お前死んでてもおかしくなかったぞ!」

 とヴァイダル団長が言う。


「しかし…側に白狼の片耳が落ちていました!クラースやりましたね!あれから狼達は警戒して人里に降りることは無くなったようですよ」

 とフィリップ副団長も褒めた。


「白狼退治は失敗したがまた人里に来るようなら赴くまでだ…耳を見せたらあの王女と王子喜んでいたぞ?」


「そうっスか…」

 するとそこでバーンと扉が開き、息を切らせ怖い目でその場を凍り付かせる令嬢がやってきた!!


「クラース!!じゃ、じゃあな!!」


「わ、私達はこれで!!」

 と恐れをなしてそそくさとヴァイダル団長とフィリップ副団長は部屋を出て行った。

 怖い顔で慎重に近づきようやく至近距離で俺を捕らえるとソーニャ嬢は一気に破顔して泣き始めた!!しかもガバーっと抱きつくから肩が痛んだ!


「痛っ!!」


「きゃあ!ごめんなさい!!!」

 離れてまだ泣いているソーニャ嬢は


「目が覚めたと知らせを聞き馬車を飛ばしましたの!!クラース様が大怪我をされたと聞いて!!私2日前も来ましたの!その時は意識も無くて…死んだようになっ…」

 と顔を覆い震えて泣き出した。


「ソーニャ嬢…すみません、偉そうなことを言って、狼を仕留め損なった…」


「いいえ!!生きているだけで奇跡ですわ!!こんな酷い怪我を負って!!」


「ご心配をおかけしました。もう泣かないで」


 肩と足が死ぬ程痛くまだ熱もあるけどなんとか慰めたくて手を伸ばすと止められた。


「動かないでください!!本当に酷い怪我ですから!!」

 と涙目で叱られた。


「ううっ!本当に生きていてくださって良かったです!貴方が死んだら私もう一生結婚しませんし女伯爵として1人生きて行かねばならない所でした!!」


「それは…もっといい人を迎えれば…」


「クラース様以上の方とは巡り会えませんわ!!」

 とキッと目が怒りに変わる!

 だけど、嬉しいな!痛いけど嬉しい!


「クラース様…私を置いて死なないでくださいね?」

 と軽く指先に触れて俺とソーニャ嬢は手をしっかりと繋いだ。


 *

 それから…ソーニャ嬢はほぼ毎日見舞った!!可愛らしい花や病院から出される流動食みたいなやつを食べさせてくれる。

 手厚い看護と彼女と居られる時間が増えて病室はもはや甘ったるい空気でいっぱいだ!

 何この幸せタイム!頑張ったからご褒美か?


 二週間程して医者に傷口を見せるとようやく自宅療養の許可が降りて明日実家に帰る用意をした。ソーニャ嬢はもちろん付き添う気満々だ。


「退院できて良かったですわ!」


「まぁ、少しは回復しましたがまだ脚と肩は痛いので自宅でもあまり動けずごめんなさい…」


「私また、クラース様のご実家に毎日通いますわ!」


「えっ!?毎日は大変ですよ!今だって大変なのに!!」

 と言うとキッとして


「クラース様が嫌がるなら私…行きませんが…」


「嫌なんてとんでもない、ただ、往復が大変でしょう?伯爵が許されるならもうしばらくいっそうちに滞在なされてはどうですか?使ってない兄の部屋を片付けさせますから!」

 と俺は大胆に何を言っとるんだ!?


 流石にソーニャ嬢の顔は林檎のように真っ赤になり


「で、ではお父様の許可を取って参ります…」


「ええ!?ほ、本当に!?」


「まぁ、冗談でしたの!?わ、私もうクラース様と離れたくなくて…」

 グハッ!!ウルウルとした瞳が俺を見つめてこんなのもう無理ですって!!


 俺は痛む肩を抑えて彼女に近寄り嬉しくてとうとう口付けた。

 彼女は少しビクっとしたけど、次第に受け入れてくれた。


 俺もようやくキスできて嬉しいわ。

 も、もう一回しようとしたけど止められた。


「クラース様だ、ダメです!まだ怪我が治ってません!も、もう少し良くなってからです!!」

 と言われもう少しよくなったら良いんかい!?

 とドキドキしたわ!!


 それから俺は退院して実家に帰ることになった。ソーニャ嬢は伯爵に許可を貰って本当にうちの実家に看病にやってきた。

 コリンヌ夫人が大忙しで働いてくれて兄の物置部屋が綺麗になっていた。


 お疲れ様です!!夫人!!と目配せすると解っていると親指立てられた。


 それからラルスがやってきて


「おお、兄さん!よく頑張ったねー?結婚は伸びちゃったかもしれないけど、あの白狼の片耳だけでも斬り落としてきたんでしょ?やるじゃん!!


 うちのギルドでも討伐依頼はくるけど中々手を付ける人いない案件だったからさー。兄さんが生贄になって仕事してくれたから被害も減ったし良かったわ!」

 と言う。


「生贄とか言うな!こっちは喰い殺される所だったし!」


「ふぐううう!!」

 とソーニャ嬢がまた涙目になるからラルスは慌てた。


「すみません!ソーニャ様!!ではまた!!僕は仕事に行きまーす!!」

 とラルスは出て行った。


「騒がしい奴ですみませんね」


「いいえ…クラース様の弟様ですから、とても可愛らしいですね、あまり見えませんけど」

 と言い笑った。


 それから実に甲斐甲斐しく世話をやいて歩行補助もしてくれたので一緒に引っ付いて散歩に出たりした。お陰で足の治りの方が早かった。

 俺はそろそろまともに肩の傷を見ようと決心し、ソーニャ嬢にも一応入らないでくれと言い、一人で鏡の前に立つ。


 ううっ、今まで恥ずかしいことにコリンヌ夫人やらに身体を拭いて貰って、コリンヌ夫人は俺の傷口を最初見て


「あらまぁ、ひっどい!!これはもうひっどい!顔がこうならなくて本当に奇跡としか言えません」

 とか言ってた。医者も似たようなこと言ってたし…。


 鏡で見るとえぐれてたようで肉は再生してなんとかなっているが噛み傷がやはり酷かった。傷口から細菌が入り何日も寝込む羽目になったり熱が続いたし綺麗には治らないだろうと覚悟していたけどここまでとは!!


「流石白狼!!もしあいつの子供を手当てしていなかったら死んで奴の血肉になってたな」

 もう絶対会いたくないわ!!

 というかこの傷口ソーニャ嬢がみたら卒倒するんじゃないか!?ヤバイ!


 結婚初夜で花嫁を気絶させたらどうしよう!?いやその前にプロポーズだけどな!!


 するとコンコンとノックされたので慌てて衣服を正してソーニャ嬢を中に入れる。


「どうでした??」


「…………………」


「言葉もないくらい酷いのですか!?」


「ま、まぁ…皆が言って行ったのは大体合ってましたけど…ソーニャ嬢は見ない方がいいです、たぶん」

 と言うとブンブン首を振る。

 えっ!?見たいの?辞めた方がいい!!俺でさえほんとに顔は無事で良かったとすら思えるもん!!顔噛まれてたら婚約取り消しになる所だよ!?


「どの道夫となる方の名誉の傷ですもの!私慣れますから!」

 見せてとせがむが


「い、いや、もう少し待ってください!倒れられたら困ります!!」


「でも初夜で倒れても…あっ…ごめんなさい!」

 ともじもじするから最高に可愛いしぃ!!

 まだプロポーズしてないのに!!

 どうしよ!もう!!


 俺は彼女を抱き寄せ


「代わりに…」

 と顔を近づけた。足も治ったしまだ少し肩は痛いけどそれももうすぐ消えるだろう。

 彼女の赤毛を撫で碧の目を見つめた。


「クラース様っ…」


「ソーニャ嬢…ソーニャ…す、好きだよ」

 と約束通りキスを開始した。

 すっかり二人とものぼせ上がった所で夕食の席で父と母から


「クラース…キス以上がしたかったらお母さんとお父さんエックハルトのとこに行くけど?」

 と言われて真っ赤になるソーニャ…。


「何で判るんだよっ!!」


「え?貴方達から甘ったるい空気がするから?ねえ?コリンヌさん」


「はぁ、わかりやすいくらいですよ坊ちゃん」


「うそおおおお!もうやだよ!この家族!!」

 と叫びつつも俺とソーニャはラブラブでしばらく過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る