第17話 狼退治と迷子のクラース

 現在地はノコル村…。

 俺は騎士団の皆総勢35名程で隊列を組み、7名で1班の計5班の編隊に別れ、そのうちの班長の1人に任命された。つまり7人のうちのリーダーポジ。

 練習試合で優勝なんかしたからこんな怠いことを任されてしまったよ。適当に負けときゃあ良かった。


 後悔先立たず。

 ヴァイダル団長の班とフィリップ副団長の班もそれぞれ別れた。

 強い奴がリーダーとなる。

 それは狼達にも言えるが。


 村を見渡せば所々狼に襲われた痕跡や、村人達が必死に応戦して怪我を負って包帯の後があったり家畜の血の跡や数匹の足跡が残っていた。雨でぬかるんでいたから足跡が残ったのだろう。まだ若い灰色狼の足跡で、白い狼は遠くから指揮するように見守っていたらしい。


 帰る時もひと吠えして引き上げて行くらしい。

 家畜を2~3日狙ったら次の村に移動するみたいだ。俺たちみたいな狼狩りが駆けつけるから警戒しているのだろう。犯行は早めに。

 泥棒の手口かっ!


 この村は昨日襲われたばかりだし今日もまた来るらしい。夜になるまで各班のリーダーが集まり作戦会議を開いた。


 主に罠を仕掛けるっていう、原始的な作戦だ。


「それじゃ、村の入り口や出口それに家畜を飼っている柵や赤ん坊のいる家を中心に罠を設置。もし罠から逃げ出すヤツは全力で追う。白い狼を確認した班はすぐ知らせろ!」

 とヴァイダル団長は言う。

 失敗は許されない。

 一度警戒すると奴等は違う村に移動するからこちらも早めにカタを付けるのだ。


 そこで班長の1人が


「クラース…大丈夫か?お前…この戦いが終わったらけっ…」

 と言うから慌てて口を抑える。


「おい、言うな?それを言うなよ!フラグ立つだろ!!?それ言ったら俺死ぬやつ!」

 と突っ込むとフィリップ副団長は


「おや、クラースついに結婚ですか?おめでとうございますー!」

 と拍手され青ざめた。言っちゃったよ!!俺の死亡フラグが立った。


(この戦いが終わったら俺結婚するんだてへっ!)は伝説の死亡フラグで言ったヤツは高確率で死ぬという。

 なんてことさらっと言ってんだ副団長!天使の顔したこの悪魔!!


 ヴァイダル団長は


「何?クラース知らせろばか!誰の紹介だと思ってる?」

 とか言いやがるし!今言うな!!


「あの…結婚も何もプロポーズもキス一つしてないので!!まだまだですっ!!俺死なないからなっ!」

 と言うと皆に笑われた。


「何だと!?お前まだ童貞だったのか!!信じられん!いや、結婚までと言う真面目な奴もいるがチャラ男のお前がなぁ。意外ときっちりしてるにしてもキスくらいはしてると思ったよ」

 と団長がニヤニヤしているが、他の班長はヒソヒソと


「クラース…やはり団長が忘れなくて婚約者には待ってもらって…」

「ああ…何て一途な!男同士でも応援するか?」

「クラース!ファイト!!」

 とか言いやがるし!

 団長はまたキレた。


「だからこいつと俺はできてねぇっつの!!」

 復讐心から


「そんな…団長、可愛い俺を捨てないで?」

 と乗った。


「こんのクソ野郎!!さっさと罠を仕掛けに行けっ!!」

 と喝を入れられ班長達は散った。


 お昼に村の女達が差し入れでお昼を持って来た。俺たちの班に来たのは村長の娘のエミリとかいう綺麗な娘で皆は


「おお!ラッキー!」

 とか言って喜んでいたぎエミリは俺に近寄り話しかけてきたから


「ちっ!またクラースか!女なんてどうせ顔で男を選ぶんだ!」

 と泣いてる者もいた。


「貴方は…」

 とエミリが聞くから仕方なく


「俺はクラース・ルーテンバリです。今日はよろしくお願いします。エミリさん」

 と礼をしたが、エミリさんは俺に興味があるのか


「いえ、こちらこそ王宮騎士様達に村を守っていただけるなんて!嬉しいです!」

 と男がメロって落ちそうな笑い方をしているのに案外あざといなって思った。お姉様方は散々その笑い方してたもんな。でももう余計なことは懲り懲りだ。


「狼を退治したら村へ泊まって行かれるでしょう?あの…是非今夜は床を整えております」

 とボソボソと耳元で誘惑された。

 つまり一夜限りの関係を狙っていると?

 あざとい。


「申し訳ありませんが俺は婚約者がいるので!」

 と断るとエミリはえっ!?という憎々しい顔になり


「まぁそうなんですか?それでは帰ったら結婚を?おめでとうございます!騎士様!」

 とまた死亡フラグ言われたわ!腹立つな!!


 *


 日が落ちてから俺たちはひそりと物陰から狼達の侵入を確認する。灰色狼が家畜に静かに忍び寄る。罠から後一歩の所で止まりなんと罠を避けるではないか!

 不味い!!家畜に襲いかかる所で俺たちは


「ゴラアアア!!狼いいいい!!」

 と飛び出していき、驚いた狼が逃げ始めたからそれを追う。2人は伝令役に残して5名で追いかけた!


「くっ!罠にかからないなんて!なんた賢い!!」


「白い狼の指示かな?人間に警戒してるなら罠のことを見抜いた!?」


「いや、そもそも罠から人間の匂いしたのかも!?鼻が効くのかも。泥とかで匂い消ししたけどやはり勘付かれた」


「罠作戦全然ダメじゃねーか!」

 と口々に言う。森の中に入り灯りを灯す。周囲は暗いから狼達が狙っているかもしれないので離れず動く。


 そこで団員の1人の後ろから狼が飛び出して襲いかかる。


「うわあああ!!」

 必死で剣を振り回したのでそいつは助かるが、次に狙いを定め足に噛みつかれるやたがいたから俺は助けに入って1匹を斬りつけた!

 ドサリと灰色狼は倒れた。


 とりあえずこいつを何とか袋に詰める指示をしている時気配がして3匹ほどが現れて襲いかかってきた!


「ぎゃっ!!来たあ!!」

 と剣を構えて応戦する。何とか2匹の始末をしたが1匹が逃げたから俺は追うことにした!


「お前らはここにいろ!!」


「クラース!1人じゃ危険だ!」


 それはそうだが、逃すわけにいくかよ!

 狼を見失わないよう後をつけていく。途中で狼は俺が1人なのを知ると向きを変え襲いかかる。

 俺はわざと隙を見せて腕を噛ませて引っ付いた狼の背後の首を狙い刺した。

 ダランとなり狼はクズ折れた。傷口を縛り、こいつを袋に詰めて班に戻ろうとしたらキャンと小さな声がして探してみると木の根本に小さな白い犬…いや、狼の子供を見つけた。


 ふむ。

 俺は近寄り持っていた燻製肉をポイと投げつけ飛びついた隙にひょいと摘みあげた。

 暴れる子供だが肉をぶら下げるとそれをまた食い始めた。


「こいつ…あの白狼の子供だな。これは囮に使えるか…」

 どうするかな?

 お腹ぎ膨れたのか眠くなったようで俺が毛を撫でるとあっさり寝始めた。こいつ警戒心ねーな!!


 しかしそこに異様な気配を感じて振り返るとそこに白い狼が睨んでいた。

 来たか!!


 俺は子供を縦に剣を構えて後ずさる。

 ここで奴にやられるわけには行かずだ!死亡フラグになってたまるか!

 灰色狼より一回り大きく殺気が凄い!


「グルルルル」

 と唸り声を上げて俺に近づく。

 ちっ!

 と後退るが、白い狼が吠え、ザザっと草の中から仲間が数匹現れ俺は囲まれる。

 やべー!!俺こいつらのディナー位置!!

 キャンキャンと子供も騒ぐ。


 そこで後ろから灰色狼が飛び出してきて咄嗟に頭を低くして避けながらそいつの腹を切り、俺は逃げ出した!!

 食われてたまるかーーー!!!


 とにかく班と合流しないとな!!

 しかしどっちだ!?くそ!森は厄介だな!

 と思ってたら急に地面が無くなった!


 え?

 えーーーーーっ!?


 俺は崖になっていることに気付かず足を踏み外し子供と共に落下する。子供を抱えて落ちた。


 *


 ソーニャ嬢の怖い顔が浮かび


『クラース様!何を寝ているのです!?』

 と怒られた所で目が覚めて全身の痛みに顔を歪める。先に噛まれた腕と左足が痛む。折れてなきゃいいけど、めっちゃ痛い!!

 うわぁ!死亡フラグが!!


 そうだ?仔犬…いや子狼は何処だと見渡すと近くに倒れて震えていた。動けないらしいが無事なようだ。こいつは前足を負傷していたから俺は噛まれないように慎重に薬草を袋から取り出して自分用とこいつの分も作り足に塗り込んで布で巻いてやる。


「お前も生きてたな…運がいいのか悪いのか」

 俺は狼煙を上げる為木を拾い集めることにした。


 だが、運悪く雨が降り始めて仕方なく子狼を抱えて足を引きずって何とか古びた小屋を発見した。中は埃で沢山で長い間忘れ去られているようだ。


「ゲホ!…助かっただけでもいい!」

 中に入り埃だらけの床にマントを敷いて壁にもたれかかる。子狼は寒いのか震えたままだから俺は布でそいつを包み抱き上げて温めることにした。俺自身を冷えていたから丁度いい。


 疲れていつの間にか眠った頃ドンドンと戸口から音がした。仲間かもしれない!!

 俺はひきづって扉を開けたが白い毛が俺を襲う!肩に激痛が走る!うわ!!死ぬ!!

 必死で狼を引き剥がそうと俺は反撃し腹を蹴る。


 人の真似して扉叩くとかやるな!匂いで追いかけてきたか?

 霞んだ目で対峙し、また狼は弱った獲物を狩る如く牙を向く!俺は霞む視界で剣を構えて奴の片耳を切り落とした!

 しかし狼はまた肩に噛み付いた!


「くあああっ!!!」

 肉を噛まれこれは…死ぬ…。フラグか。

 ソーニャ嬢…。


 彼女の悲しげな顔が浮かび死を覚悟した瞬間、キャンキャン!と声がした。そして俺はドサリと床に落とされた。


 *


「………ス!!………ろ!!」

 痛い…くそ…なんか熱まである?熱いし痛い!


「クラース!!」

 ヴァイダル団長だ。

 薄ら目を開けると


「おお!目開けた!生きとる!!」

「クラース!!大丈夫ですか!?」

 副団長もいる。


 俺は朦朧とする中また意識を失った。

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