第14話 ソーニャ嬢の心配

 レグニ鉱山に行くのは俺と弟の冒険者ラルスに親父のヨッヘムと兄のエックハルトにヴァイダル団長とフィリップ副団長を道連れに構成して行くことにした。


「何で俺まで行かないといけんのだ…今日は妻の料理を楽しみに家に帰れる日だったのに!」

 とヴァイダル団長が泣いている。


「まあまあ団長。クラースの為に一肌脱ぎましょうよ」

 と笑い、

 父と兄と弟は


「おい、クラース、分け前だが、俺たちも水晶を採って売ってもいいよな!?お前の持参金代わりに多めに採取しておこうな!」

 とどんだけ採るつもりかデカイ袋を用意していた。


「いひひひひ、お金の匂いがしてきたな」

「ああ、これで俺も嫁に高価なプレゼントを…」

「僕も恋人にプレゼントしようかな」

 と金の匂いで既にう付いている我家族。まぁ俺も結婚資金とかに貯めれたらなぁとか思ってるけど。


 出かけようと幌馬車に荷物を積み込んでいたら


「クラース様!!」

 となんと馬車から降りてくるソーニャ嬢の姿が見れた!!

 ぎゃっ!何故こんなとこに!?

 今日は鉱山に行くから全然お洒落してないわ!!しまった!!でも遠くだからそんなに見えないか?動きやすいフラットな服だし。


「ソーニャ嬢何故ここに!?」

 と驚いて聞くとソーニャ嬢も驚いていた。


「えっ!?お見送りですけど…?もしかして場違いでしたかしら?」

 えーーーっ!?

 と周りを見たら団長達はともかく近所に住んでる兄の嫁や弟の恋人らしき女と母のマリアンヌがそれぞれ駆けつけてランチとかを渡していた!!

 そ、そういうもんか!?


「いや迷惑だなんてそんな!嬉しいです!」

 と言うとソーニャ嬢はおずおずと俺にランチボックスを渡した。


「私…頑張って厨房に立ちましたの。クラース様…ご無事で…」

 と言われる。

 何!?これ!!高価そうな服でも靴でもネクタイや帽子でもない!

 ソーニャ嬢の手作り料理!!

 どんな金品より価値があるように見える!!


「あっ…ありがとうございます!大切に食べます!!」

 心がじわっとした!

 ソーニャ嬢はさらに、


「狼は群れで襲ってきます…。白い狼は変異種だと思いますが本当にお気を付けてください!群れのリーダーに痛手を与えれたらいいのですが…」

 と心配してくれる。その知識は本で読んだのだろう。


「おーい、クラース!そろそろ行くぞ!乗ってるからな」

 と兄が声をかけて幌馬車に乗り込んだ。


「では…行ってきます!」

 と敬礼して行こうとするとソーニャ嬢は


「クラース様……少しだけ屈んでください」

 と内緒話をするかのような仕草を見せたので何かと俺は屈んで耳を寄せると頰に柔らかい何かが当たり、それがソーニャ嬢の可憐な唇だと分かった時には無意識に言葉にならないほどパニックになり赤くなった。


「お気を付けて!お帰りをお待ちしてますわ!」

 とまるで妻のように言われ俺は頭を下げて馬車に乗り込みそのままバターンと倒れた。


「ぎゃっ!クラース!?どうした?」

 とヴァイダル団長が驚いたが

 うちの家族は


「大丈夫です。幸せ過ぎて死んでるだけだから。とりあえず行きますか!」

 と幌馬車は鉱山に向け進んだ。


 *


「大変です!お嬢様!」

 邸に戻るとギーゼラが青い顔でクラース様に渡したランチの残りを持ってやってきた。

 朝早くに起きて作った簡単なサンドイッチだ。


「どうしたの?ギーゼラ…慌てて?」


「………このサンドイッチですが…お嬢様…味付けを間違えてらっしゃいます!たぶん塩と砂糖の区別を間違えてさらにマスタードと黄色絵具が入っているかと…」


「え!?塩と砂糖はともかく黄色絵具ってなんなの!?そんなもの厨房にあったの!?」

 私も青ざめた!!


「シェフが空いた時間で絵を描こうとその辺りの小皿に紛らわしく出していたのをマスタードとお間違えになられたかと…」


「なんてことなの!?」

 ショックで固まりかけた!クラース様が食べてお腹を壊すかもしれない!!


 どうしよう!!


『不味い…なんだこれ?食べ物なのか!??最悪だ!料理も作れない婚約者だったとは!それとも嫌がらせなのか!?やはり婚約はなかったことに…』


 とか言われてたらどうしよううう!!


「ううっ!も、もうダメだわ!!」

 私はクズ折れた。


 *


「もうすぐお昼だなぁ…」

 とヴァイダル団長が言い、俺もソワソワしだした。ソーニャ嬢の作ってくれたランチとか嬉しすぎる上に先程のほっぺたにキスがもう脳裏をよぎり冷静さが失われつつある。

 正直お姉様方にキスくらいさせてよ?と何度か迫られてきた。

 だが、俺は


「1人に許すと全員にしないといけないから…嫌でしょ?他の人にされるの。俺は…皆のクラースでいたいんだ!」

 とか気取って遊び人みたいな台詞吐いてた過去の自分!!


 ふふふ、よくやった!

 おかげでソーニャ嬢からのほっぺたキスを最初にいただいた!!

 このほっぺた…大事にしよう!

 とうっとりしてると皆が気持ち悪りぃという目で見ていた。


 休憩の為、ランチタイムになりそれぞれランチを食べることになったが俺は皆んなから離れて食べることにした。

 だってソーニャ嬢が作ってくれたものを意地汚いこいつらの悪魔の手が伸びないともかぎらないからな!


「おい、離れるのはいいがあまり遠くに行くなよ?」


「分かってますっす!では皆さん後で!」

 キリッとランチボックスを抱えて木の下へ行きようやく食べれるとボックスを開けようとしたら何かが上から降りてきた。


「!?」

 目の前に何故か野生の猿が居て俺と目が合うと


「キャキャーーーー!!!」

 と牙を剥き出して思わずビクッと後退りしたらその一瞬で猿はランチボックスを抱えてひょいひょいと森へと消えた!!

 呆然とする俺…


 えっ!?何が起きたの??

 てかあの猿…。


 追いかけようにももはや猿の姿はなく勝手知らない森で1人行動することは危険だと騎士の訓練で習っている。

 俺は魂が抜けたように団長達の元に戻り、事態を報告すると言うまでもなく爆笑された!!


「ぐはっ!クラース!!だからこっちで皆と食えばさ、猿に奪われることもなかったのにな!!自業自得!!くくっ!」

 と団長が笑うので俺はささっと団長のランチを摘む。


「あっ!俺の分を!!」

 これは団長が用意したものだ。家に帰れない団長が自分で作ったものだ。


「減るもんじゃないっすよね?団長は料理上手いなぁ…」

 とモグモグしていると副団長が微笑ましく見ていた。


「減るわ!!食ったら減るわ!!やめろこのバカ!!そしてフィリップも勘違いするな!!」

 と悲しいお昼が過ぎてようやくレグニ鉱山の晶洞に到着した。


 晶洞の中は水晶がビシリと生えて父や兄や弟は完全に目が金へと変わり工具をそれぞれ持ち


「いひひひひひ!!金だ!!宝の山だ!!」

「いひひ!!儲ける!!これでいい酒を買える!!」

「いひひひ!!これを元手に商売でも始めるか?」

 とか言いながら狂ったように水晶を摂り続けた。


 俺も綺麗な透明純度の高いものを採取することにした。綺麗に岩から削り取り袋に詰めて行く。袋がパンパンになった頃、外で不穏な気配がした!


「クラース!皆!狼どもが集まってきたみたいだ!奴等…ここに入った人間が出てくるのを待ち、狩をするようだな」

 と団長が言う。

 グルルルル。

 と唸り声が晶洞内に響き、俺たちは武器を構えた。


 こんな所で狼の餌になるわけにいかない!

 副団長が煙玉を投げて皆は狼が怯んだ隙に外に出て狼達を斬る。


 灰色狼ばかりの群れで狼達は一旦離れて様子を伺った!すると奥から一際眼光が鋭い、白い毛並みの狼が現れた!!変異種か!!

 奴が群れの統率者だろう。


「はっ!とうとう現れやがった!」

 と兄が叫ぶ。


「白い毛か…貴重なら毛皮も高く売れるかな?」

 ラルスも舌舐めずりしたが、白い狼はこちらを見て警戒していた。いつのまにか灰色狼達が周りを取り囲んでいた。一斉に俺たちを襲う気だろう。皆も背を向けあい狼達と対峙した。


 白い狼のひと吠えで灰色狼達がついに牙を剥き出して走ってきた!!


 怯まず俺たちは剣を取り戦った!副団長は一番狙われやすかったのか数匹が襲い掛かった!


「フィリップ!!」

 と団長が助けに入ろうとしたが、狼達は一瞬の剣劇で弾け飛んだ!!


 どうやら副団長の天使スイッチが悪魔スイッチに切り替わったみたいで


「げひひひひ!!お前ら…俺が食いたいか?俺の肉が?逆にお前らの肉が俺は食いたいな!よし!薫製にしてやろう!!」

 と目が完全に逝って灰色狼達に突っ込んで次々に倒して行く!流石だ!


「ひえっ!あの人誰?」

 とラルスがビクッとした。

 今まで天使だったしな。


 そしてその戦いぶりに狼達は怯み、白い狼がひと吠えすると森の奥へと逃げ帰って行った。


「ああ、白い狼が行っちゃった…残念…」

 とラルスは肩を落とす。


「冷静な判断だろう。流石群れのリーダーだな」

 と団長はうなづき、帰路に着くことにした。


 *


 街に着く頃には日がすっかり暮れてしまい俺は実家に団長達を招き泊めることにした。そこに…俺の天使がいた。


「クラース様っ!!ご無事で!!」

 俺の姿を見るなり走りより抱きつきそうになったが、それは弟のラルスだからささっと前に出てラルスを突き飛ばしソーニャ嬢を受け止めた。


「いてえ!!兄さん酷い!」

 だが、無視した。


「ソーニャ嬢、何故うちに?」


「クラース様が心配で!私…あ、あのランチを食べたのですか?」


「えっ!?」

 ヤバイ!食べてない!!猿に取られたとか言えない!!


「ええとあの…と、とても美味しかったです!!と、途中食べ終わると猿にボックスを奪われてしまって!!大変申し訳ないです!」

 と誤魔化した。


「そんな…美味しいだなんて…」

 とソーニャ嬢が険しい顔になりなんと俺のお腹をさすりだした!ええええ!?

 そっ、そんな!皆の前で大胆です!ソーニャ嬢!そういうのは2人きりの時にまた!

 とか妄想してると…


「大丈夫…なのですね?良かった!」

 と涙まで見せて!ヤバイ!相当俺のことを心配していたんだ!!きゃわいいぞ!!

 変な下心持ってごめんなさい!!


 それを見て家族や団長達は微笑ましく思っていたが、うちの激辛スープを出されて悶絶していたのは言うまでもない。

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