第12話 激辛スープと甘い告白

 私が部屋に戻ると


「そんなこと出来るわけない!」

 とクラース様が叫んでいた。なんでしょう?


「あっ、ソーニャ様!!どうも!」

 クラース様は赤くなりお帰りとぎこちなく笑っていた。??


「そうそう…我が家のスープですが、本当に辛いのですが平気ですか?万が一の為に医者を手配しますので!」

 とクラース様のお父様が言う。

 え?医者?そんなにも??

 と驚いたがここで慌ててはいけないと気合を入れた。


「大丈夫ですわ、私楽しみにして参りましたわ!」

 と胸を張る。それにご家族は驚いているような空気だ。


 そして食卓に通されツンと鼻を刺激する匂いがした。椅子をクラース様が引いてくれて座る。こういうことにやはり慣れていらっしゃるのね。女性の扱いが上手過ぎる。それに少しモヤっとした。


 しかしそれもそこまでだった。目の前に赤いスープが置かれた。一瞬トマトスープかと思ったが違う。明らかにトマトではない刺激物入りのスープだ!!!

 まるで地獄のような真っ赤な液体がグツグツと音を立てている。目に痛みが来る!


「す…凄い…」

 思わず涙や鼻血が出そうな匂いがする。どうやったらこんなスープが作れる!?そして家族も席に座りお祈りを始める。


「天におります神々よ。この食事にお恵いただき感謝を込めてお礼申し上げます」

 クラース様も手を組み祈り私も真似た。

 そしてスプーンを持ち皆様は激辛スープを何ともないという顔で啜った。何なら談笑までしている。汗一つかいてない。


 意外と大丈夫なのかしら??

 私は勇気を出してスプーンで一口口に入れビリっと舌が麻痺しそうな感じで一気に身体が芯から沸騰しそうになった!!

 そのまま卒倒しそうに熱い!!灼熱だ!!

 それほど舌に絡むスープが劇物かと思うほど辛く脳まで刺激した!


 はっきり言って人間の食べる辛さの基準を軽く飛び越えていた。

 チラリとクラース様が心配そうに見てそっと声をかけた。


「あ、あのやはり口に合いませんよね?残してもいいんですよ?普通のスープもありますよ?」

 と言われたが私は首を横に振った。その時ラルスくんが


「…へえ?」

 とこちらを見定めるような声を出した。

 試されているのかしら?このスープ!?

 全部飲まないとこの家族にクラース様との結婚認めてもらえないの?


 私は我慢して震える手でもう二口と飲んだ。


 うぐああああ!さっきより辛さが増したような!?三口目にスープを口に入れた時はとうとう耐え切れずに汗がドバリと流れた!!

 私は玉の汗を流しながらスープを気合で飲んでいる。その光景を見て皆様は驚いているようだ。


 *


 我が家の激辛スープを恐ろしい顔で飲む光景は誰もが震え出すくらいの迫力があった。

 彼女の後ろにメラメラと燃える炎の幻影すら見えるようだった。

 ゴクリと母もそれを見ていた。


 そしてソーニャ嬢は何とか完食した。


「ソーニャ嬢!?顔が真っ赤です!!あっ!熱っ!コリンヌさんお水を!」

 と俺は慌ててソーニャ嬢にお水を渡すがソーニャ嬢は一歩早く机に突っ伏した。


「ソーニャ嬢!!!」

 俺は駆け寄り


「あらあら…この程度の辛さで?」

 と言う母を差し置いて直ぐに今は使ってない俺の部屋まで彼女を抱えて駆け上がりベッドに横にした!!


「クラース兄さん頑張って!」

 とニヤつきながらラルスは扉を閉めた。

 あほか!そんな場合じゃない!!

 身体も熱いからとにかくお水を意識朦朧の中グラスに注ぎ口元に当てるとゴクゴクソーニャ嬢が飲み再び倒れた。


 うわぁ!!

 死んだ!?いや、やはり飲ませるんじゃなかった!!初心者向けのスープじゃなかったよ!!


「私を殺す気ですか!?貴方とは婚約なんて解消しますわ!」

 と言われてもおかしくない!!

 しかし数分後彼女はハッと目覚めた。


「ソーニャ嬢!!」

 と駆け寄ると


「うう…」

 と埋めいたのでまた水を渡すとゴクゴクと飲んだ。そして……


「ああ!生き返ります!でもとても辛かったです!!あのスープ!気絶する程に!」


「いや、実際してます!大変失礼致しました!!」

 と頭を下げた。しかしその頭をソーニャ嬢は撫でて


「顔を上げてくださいませ。クラース様。とても貴重な経験でしてよ!緊張も何も吹っ飛びましたわ!うふふふ!」

 と笑う。


「もう平気ですか?」


「喉はまだひりひりしますけど大丈夫ですわ!心配なさってくれたのですね…て、ここ…」


「ああ、俺の部屋ですよ…。いきなり倒れられたので…」

 と言うとソーニャ嬢は赤くなる。


「ではここ、クラース様のベッド…お部屋…」

 と言うから俺もドッキンドッキンし出した!ラルスも変なこと言うし!

 そんなつもりで連れ込んだんじゃないぞ!?


 でもいい雰囲気だ!!こ、これなら…。


「し、しばらく休んで下さい。それからお屋敷まで送りますから」

 ダメだ。とてもいられない。と立ち上がりかけたがガシっと袖を掴まれドキリとした。


「クラース様…行ってしまわれるの?」

 と。ひいいっ!

 やめてそんな心細そうな顔!碧の目が俺を見つめて


「ソーニャ嬢がいいと言うならいますけど」

 と伝えると即


「ではいてほしいです!」

 と言われドキドキした。ついに俺はソーニャ嬢の手をおそるおそる上から握った。細くて白い指を撫でる。ソーニャ嬢は赤くなり俯く。

 くっ!!きゃわいい!!


「クラース様…わ、私…」

 とソーニャ嬢が何か言いそうになるから俺は彼女の口元に指を当てて自分から言った。


「ソーニャ嬢…倒れてとても心配しました。本当にすみませんでした。呆れられても振られても仕方ないのですが、その前に俺の気持ちをお伝えしても良いですか?」


 と言うと瞳が潤みソーニャ嬢はうなづく。

 一呼吸置いてはっきり言った。


「ソーニャ嬢のことが好きです。ほ、本気です。貴方にしか恋なんてしたことがありません。綺麗な女性は数多いれど俺の心に灯りを灯し焦がすのは君だけです!ソーニャ嬢のことで俺はいつも頭がいっぱいなんです!」

 と凄くこっぱずかしい台詞を俺は吐いた!!

 ロマンス小説じゃないけどそれなりにこれは臭すぎるんじゃないかと思い後悔しかけ真っ赤になって俺も俯いた。


 するとポタリと滴が落ち、見るとソーニャ嬢の碧の瞳から堪えきれず涙が出てそれを止めようとキッと目に力を入れて震えていた。余程俺の告白が気持ち悪かった??

 と思ったがソーニャ嬢はハンカチを取り出して顔を覆うとそのまま


「クラース様…私とても…嬉しいですわ…。今日こそとても素晴らしい1日ですから!わ…私も…クラース様のこと…お慕いしております…」

 と言われたからまさに天にも昇る気持ちだ。俺たち今やっと始まったのかと思える。


「ソーニャ嬢…俺…もうお姉様方とは会っていないのです。貴方とお会いすることをいつも楽しみにしていたから…」


「本当ですか?」


「俺の声が嘘をついていますか?」

 するとハンカチから少し顔を上げると


「いいえ…嘘は言っていないようです…」

 と言う。


「信用されて良かったです!あ、あの…本当に俺眼鏡を…合う眼鏡を探しますし、こ、この婚約本当にしてもいいですよね?」

 と今までのことを精算するように言うと彼女もうなづいてくれた。

 ふえええ!愛しいとはこのことかよ!!


「はい、よろしくお願いしますわ!」

 と彼女がまた花が咲くように笑ったので俺はまた心臓を射抜かれた。

 それから2人手を繋ぎ部屋から出る。


「階段に注意してくださいね」

 と手を引いた。

 ああ、幸せとはこのことか?

 すると家族がニヤニヤしつつ、


「あらお帰りに?お泊りになられても良かったのですよ?」

 と母が言い俺は


「も、もうやだなぁ!お母さん!彼女を送っていきます!伯爵様がご心配なさるでしょう!?」

 この下品な家族どもめ!俺は好きな人は大切にするんだ!


「あ、あの、スープ慣れるようにこれから頑張りますわ!ですからまたお邪魔してもよろしいでしょうか?」

 とソーニャ嬢は倒れたのに健気にまた来たいと言ので皆はまた驚いて


「ほ、本当に…でございますか?うちのスープをまた飲みたいと?」

 父は少し震えていたが、今度は恐怖でなく感動の方だろう

 ソーニャ嬢は迷いなく言う。


「はい!私…クラース様と将来を共にしたいと存じますし、ルーテンバリ家とも仲良くなりたいのです!スープの味にも慣れたいのでまたご招待ください!」

 とにこりと笑い礼をしたから皆ホワッとそのソーニャ嬢のギャップに驚いた。

 ラルスが


「わぁ!そっちのがいいね!こりゃ兄さんが好きになるわけだね!」

 と言うから俺は笑顔で弟の頰をつねった。

 余計なこと言うな!と。


「いてえ…」

 とラルスは言い、家族に別れを言い、馬車に乗り込んだ。


 馬車中でなんか甘い空気が流れ思わずまた沈黙してしまう。


「クラース様…今日はとても楽しかったです!とても美しい家族に囲まれて緊張しましたが」


「あはは…うちの家族も見栄っぱりですからそんな堅くならなくてもいいですよ?」

 本当によそ行きのいい顔してたから。

 するとそこでまたガタンと馬車が揺れてソーニャ嬢の身体がこちらに倒れた。馬車の中でまた抱き合うようになり慌てて離れようとしたがソーニャ嬢が


「つ、着くまでこのままで…」

 と言ったので俺はドキドキして赤くなり


「は、はい……」

 と言い優しく抱きしめていた。

 御者台から


「すいませーん、道が悪くってー」

 と聞こえたから


「もういいよ!!」

 と返すと腕の中でクスリと小さく笑う彼女がいた。

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