第11話 激辛家族2

 馬車に揺れること数分で王都に着き、賑やかな様子にソーニャ嬢は耳を澄ました。

 やはり早く合う眼鏡見つけてやらないとな。


 そしてついに俺の家に着いた。


「ここがクラース様の…」

 とソーニャ嬢はひっそり佇む実家を見上げる。

 それから玄関を叩くと久々の家政婦のコリンヌ夫人だ。


「お帰りなさいませ!坊っちゃま…と御婚約者さ…」

 とコリンヌ夫人は固まった。ソーニャ嬢はめっちゃ凝視していた。


「ああ!コリンヌさん!婚約者の…ソーニャ・クリングバル伯爵令嬢だよ。20歳」

 と紹介した。彼女は緊張でコリンヌさんをギョロリと睨んで…凝視した。


「!!!こ、これはこれは!も、申し訳ありません!!何か失礼を致したようですか?」

 とペコペコとコリンヌさんは頭を下げている。


「ち、違うよ!彼女かなり目が悪いからこれ凝視だよ!コリンヌさん!」

 とフォローする。ソーニャ嬢は


「こちらこそ、申し訳ありません、私の目のせいで恐ろしく見えるでしょう?」

 と怖い目のまま、口元をなんとかニヤリと歪めたので余計に悪人顔となってしまっている。

 ソーニャ嬢逆効果!!


「と、ととととにかく此方へどうぞ!」

 とコリンヌさんは若干震えつつ案内した。

 ソーニャ嬢はしゅんとした。俺は背中をポンとしてひそりと


「そんなに気を張らないでください。リラックスしていれば目に力は入らないから」


「で、でも…無理ですわ…クラース様の家族に会うのに…緊張で私おかしくなりそうです」

 うん…俺も君が可愛くておかしくなりそー!!


 ともかく我が家の居間に家族が集結していた。


「ただ今皆!!」

 とまず俺が入りそれからソーニャ嬢がそろそろと入室し、スカートの裾を摘み貴族の礼…カーテシーを取りギンっと周りを一瞬にして威圧しこの場の者を支配した。

 俺は例外だが。

 皆呆気に取られ固まりつつあったが、母のマリアンヌが


「ま、まあええと…ソーニャ様でしたわね!ど、どうぞこちらへお座りください!クラース貴方も!!」

 と母が気を利かせて2人がけの狭いソファーを勧めた。俺はソーニャ嬢の肩を掴み


「こちらです。狭いけどごめんなさい」

 と一緒に座る。本当に狭くて身体ひっ付きそう!

 質素ですみません!


 兄弟達に両親も座った。

 父のヨッヘムは大人のダンディさで笑顔を貼りつけていた。けして顔色を崩さない男。それが父だ。俺たち兄弟も父のその魅力溢れる仕草をよく勉強したもんだ。


「クリングバル伯爵令嬢…うちのクラースとの婚約おめでとうございます!全く知らなかったので挨拶にも行けず申し訳ない!クラース!お前のことだから浮かれて手紙を書くのを忘れていたんだな?このバカ息子」

 と的確に言われ


「うぐっ、すみませんお父さん」


「私も…申し訳ありません。直ぐに知らせるべきだったのですが私お見合いで振られてばかりでしたのでお相手の意向を組んでおりましたの」

 とソーニャ嬢がギンと目力を駆使した。

 それに父は一瞬小さくビクっとした。


「いえいえ、いいんですよ!!こうしてお会いできて光栄です!ソーニャ様どうぞ、うちのバカ息子をよろしく!さあ、お前たちもご挨拶を!」

 と固まった兄のエックハルトと弟のラルスにパスした!!


 ゴホンと咳払いし兄が


「は、初めまして!ソーニャ様!クラースがいつもお世話になっております!長男のエックハルトです!私は結婚して家を出てこの近くに住んでおりますのでこ、今度どうぞ我が家にもいらして下さい。ああ、すみません、大変狭いのですが!!」

 遠目に来るな!と言ってないか?だが笑顔は父のように崩さない流石だ兄さん!でも足がカタカタ震えてた。


「三男のラルスです。うちは男兄弟ですから僕にお姉様ができるなんて嬉しいなあ!」

 とラルスは美少年必殺甘え微笑み殺しを発動させた!年上のお姉さんに可愛がってもらうテクで俺が伝授した技の一つを早くも!やるな!弟よ!


「まぁ…クラース様によく似ていらっしゃいますね。ふふふ…」

 と凝視したまま、凶悪な笑い顔を見せたソーニャ嬢。ラルスは技が返されてビクンとした。


「すみません、私お花摘みに行ってもよろしいでしょうか?馬車移動が長かったもので…ごめんなさい」

 とソーニャ嬢がもじもじしたのでコリンヌさんが


「どうぞ!こちらです!!」

 と連れ出した。パタンと部屋が閉まると一斉に皆が俺に質問しだした。


「クラース!どういうことだ!?めちゃくちゃ睨まれているが!?」


「私たち舐められているのかしら?」


「そもそも脅されて婚約してるの?そうでしょ兄さん!」


「クラース!今ならまだ間に合うから!もっと良い令嬢のとこに潜り込め!!」

 と言われて俺は怒る。


「うるさいなぁ!俺はソーニャ嬢意外と結婚する気はないね!!父さん達落ち着けよ!目がかなり悪いって言っただろう?よく見たら可愛いんだよ!!まぁ俺だけが知ってればいいけどね!」

 と言ったらこれまたポカンとなった。


「クラースお前…本気だったのか!?てっきり搾り取れるだけ搾ったらポイ捨てかと」


「ええ…本気だったとは驚いたわ…」


「俺はソーニャ様に殺されるかと思ったよ」


「僕も…あの技が通じない相手に会ったのは初めてだよ兄さん…」

 こいつら…。


「だから…普通の反応してよね!普通に!俺たち普通の一家だろぉ?間違っても彼女に変なこと言ったり誘惑とかしないでよ!?」

 と念押しした。この家族ならソーニャ嬢さえも手玉に取ろうとしてくるだろうから!


「んん、本当に大切なんだね、兄さん…。判ったよ。僕協力するから」


「そうね。ちゃんともてなしましょう?でもクラース…あのスープを勧めるなんて貴方こそ失礼では?」

 と母が言う。


「いや、ついうっかり話題的に言っただけなんだけど意外に興味持ってくれて」

 と言うと父が


「うちのスープは普通の奴には辛すぎて飲めんとの声が続出しているのにな」

 それに兄さんは


「むしろそれが婚約者の最初の試練なんじゃないの?俺の嫁さんもそうだった。エミリアは耐えたよ」

 と言った。

 ソーニャ嬢大丈夫だろうか?

 俺はスープが飲めなくても結婚する気でいるけど。


「ところでお式はいつなの?クラース?もうプロポーズした?」

 母が言い、


「いやいや!まだそんな段階ではないよ!母さん!俺たちまだ…」

 と言うと兄が顔をしかめた。


「は?お前まだって…まだヤッてないの?」


「兄さん!下品な!!そそそそんなことまだできないよ!!」

 と言うと既に早々と童貞喪失済みのラルスは


「このヘタレ兄さん。兄さんが意外とピュアなのは知ってるけど。ピュアな方がモテると言い張り23歳。何なの気持ち悪い」

 と言う。


「お前と一緒にするな!!俺はプラトニックに彼女と付き合っていくんだ!まだまだ大切に時間をかけたいんだ!」

 と言うとやれやれと皆見つめ


「判ったよ、チェリーボーイ。応援しよう。まぁキスくらいはしているだろうし後はベッドに連れ込み既成事実を作ればいいだけだ!」

 と父は親指立てながらとんでもないこと言う。


「あらあら、なら私達は夕食後、エックハルトの所に泊めてもらう?このうちでヤリやすいようにしてあげるわよ?クラース」

 とこっちもとんでもないこと言い出した!

 そうこれがうちのとんでもない家族の本性だし仕方ない。


「やめてくれる?まだ俺は彼女に告白もキスすらしたことないんだよ!!俺の一方通行かもしれないのに変なこと言わないでくれよ?」

 と言うと家族達はギョッとした!!


「お前!!流石に味見すらしてないとは!!どういうことなんだ!!?」

 と父が逆に震えだした。


「このヘタレが!」

 と兄さんも言い出した。兄さんは町長の娘のエミリアさんに目をつけて早々に堕とした。全くとんでもないわ。ラルスの恋人も一応良いとこのお嬢さんみたいだ。


 俺は何故か家族に叱れつつ…いや、おかしいのはお前らだよ!と心の中で突っ込んだ。


 *

 ソーニャはお手洗いの化粧台の前でドキドキしていた。


「あんな…美しい家族に会って緊張しない方がおかしいわ!皆さん本当に美しい。流石クラース様のご家族だわ。…でもやはりこの私の顔が怖いから…クラース様にもご迷惑じゃないかしら?」


 不安だ。あんな怖い顔の令嬢との結婚なんてやめなさいって言われたら?そもそも私達まだそういう仲でもないけど…私の方がクラース様に振られる可能性が高いわ…。

 とは言え、この笑顔…では…。はあ。

 とため息をつき、部屋に戻ったのだった。

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