第6話 恋文の書き方
『近況報告
最近第一王女の護衛騎士に就任しました』
グシャリ!と俺は紙を丸めた。
何だ!?近況報告って!!?
ちげーよ!!
恋文だよ!!
ソーニャ嬢へ!!
なんだこれ?なんでこんなに文才が無いんだろう?
「お、俺って…文才無かったんだ!!報告書と反省文しか書いたことないわ!!」
うがーー!と頭をグシャグシャにして訳のわからない叫びを一人部屋であげた!!
こうなったら…俺は立ち上がり夜中にも関わらず団長の宿舎寝室へと向かった。
最初警戒され
「何者だ!!」
とか剣を向けられたが俺と判ると
「何だクラースか…月明かりが無ければ確実にお前の息子は斬り落としていたぞ」
「いや、こええええ!!団長!!」
と震えて息子ガードした。
「何だこんな夜更けに?俺は眠いんだ!まさか男が好きになって…やめろ!俺がイケメンだからって!俺には可愛い妻がいるんだ!」
「んなわけねーですよ」
「んじゃなんだ?」
というから俺は赤くなりもじもじした。それを見てヴァイダル団長は青ざめた。
「おまっ…本当に俺のことが!?」
とか言う。違うし。
「…団長は…奥さんに手紙とか書くんでしょ?書きますよね?」
「まあ、遠征とか任務で遠くに行く時は数日会えんからな。そりゃ書くが…」
「な、なんて?」
「何でそんなことをお前にわざわざ話して聞かせないといかんのだ!?気色悪い!」
「ざっくりでいいんですよー?書き始めとか中盤とかラストの締めくくりとか!」
「ざっくりじゃなくて全部じゃねーか!バカが!」
と突っ込みヴァイダル団長はニヤリと口角を上げた。
「そうかお前…ソーニャ嬢に恋文を書きたいんだな?そーかそーかそーか!」
と言われて俺は恥ずかしくなる。だって書いたことないそんなの!貰ったことは何通もあるよ?でも全部女の子からだし、男からってのはもちろんない!あったら気持ち悪い。
男が女に向けてどう書くんだとか同僚にも恥ずかしくて言えないから団長のとこに来たのにーー!
「まぁ悪かった。落ち着け。普通に書けばいいだろ?」
「その普通がわかりません。そもそも彼女の趣味すら知りませんから話題がない」
「じゃあ自分のことを書けよ。王女付きの護衛騎士になったじゃないか」
「それ一行で終了します。王女の密着1日とか書いてもなぁ。王女のプライベートなあれこれの秘密だのも書いたら俺殺されるかもしれないし…」
「なんだよそれ。護衛騎士も大変だな……じゃあお前のソーニャ嬢への熱い気持ちでも書いとけよ」
「書けませんとても…文字でなんか無理です!」
書けたらこんな所に来てないわ!
「何のための恋文だよ!!じゃあもう後はこっちは健康ですみたいなことしかないだろ!」
「それじゃ、田舎のじーちゃんに送る手紙じゃないですか!」
「知らんわ!!」
くっ!役に立たない団長め!
「それと俺…気付いたんですが…」
「なんだ?」
急に真剣な声色で言うので団長も真剣に聞いた。
「根本的に俺の字が…汚いんです!!」
それを聞いてヴァイダル団長はジッと俺を見て静かに席を立ち枕を抱えて布団にするりと入った。
「んじゃ…おやすみ」
「いや、待ってくださいよおおおお!!団長おおおお!!」
としがみ付くと
「うるせー!自分の部屋に帰れ!俺は眠いんだ!馬鹿野郎!!」
げしげし蹴られた。
「正直言って俺のゲシュタルト崩壊したような文字ではソーニャ嬢は読めないと思います。ただでさえ目が悪いのに」
「ああ…お前の報告書は最悪だからいつも俺が書き直しとるんだ」
団長も思い当たりようやく話を再開する。
「皆ご令嬢に手紙とかどうやってどんな言葉で書いてるんだろう?」
「そりゃ最近の若者なら自分のことやら早く会いたいとか好きだ、愛してるとかだろう?お前もそうだろう?それを素直に書けばいいじゃないか。ありのまま伝えろ」
「ひいいっ!恥ずかしい!!」
「もう手紙書くなお前は」
と言われてしまう。
ソーニャ嬢には確かに会いたいがきっかけが何もないのだ。俺は王女付きになったから騎士団の方にもあまり顔出せなくなるし。まさか王女に隙あらば誘惑されそうですとか書けねーし。後、好きだとか愛してるとか普通に書けるわけなかった。
「ならば手紙と一緒にプレゼントでも贈ったらどうだ?例えば休日どこかへ行って土産の一つとか、お前の持ち物の何かとか」
衝撃だった!!
プレゼントと一緒に手紙!!?
それなら土産話を内容にして自然に送れるじゃないか!これならいけるかも!!?
「流石団長!!ありがとうございます!!それでいきます!!…………あ…」
ちょっと待てよ?
「どうした?」
団長はまた布団に入ろうとしていた。
「………………俺の持ち物…女の子から貰ったのばっかりでした」
「まずお前は女関係を断ち切れ!!」
と言われた。
産まれてこの方ちやほやされ続けていろいろ物を貰いまくった俺のパトロンお姉様方との縁を切れと!?
でも…そうでもしないとソーニャ嬢はまたあの笑顔をくれないかもしれない…。
「ううっ…くっ!わ、判りました…」
守銭奴な俺にとっては苦渋の決断!
「どうせお前もうすぐ王女に付いて隣国ヘヒト王国まで行くんだろう?王女様の婚約者の王子様に会いに」
ああ…そういうスケジュールもあったなぁ…。王女は王子に会うとか言いつつも本当はアスターと旅行するだけみたいなやつ。完全に建前でお互い挨拶交わして演技した後はそれぞれ別の相手とイチャイチャする予定のカムフラージュ旅行。そんなことは団長に言えないが!俺の命が危ない。
しかも王女は俺にも隙あればと狙ってる節あるから気をつけないと俺がアスターくんに暗殺されるなんてこともあり得る!なんてデンジャラスな旅だ!因みに隣国へは船で行きます。
「ヘヒトで土産でも買って手紙書いて一緒に渡せばいいだろうよ」
とアドバイスされまぁそれがいいかな?と思った。ついでにヘヒトで眼鏡でも探そうかな。
「んじゃ、団長…ヘヒトへ行くこととかソーニャ嬢に手紙出しといてください。俺は字の練習をしなくちゃならないから。あ、それからこれまでお世話になりましたお姉様方へも代筆お願いします。なるべく怒らせないよう丁寧にお願いしますね?女性は繊細な方が多いですからね?僕のことを想い泣かれると困りますから」
「そんなん自分で出せやあーー!!」
と思い切り枕を投げられた。
*
侍女のギーゼラがクラース様から手紙だと言って持って来てちょっとドキドキしながら封を切るとヴァイダル団長の代筆であった。
クラース様の字が汚いとかで代筆を頼まれたらしい。彼は今字の練習をしているらしい。
やはり第一王女のレーア様の護衛騎士になったことや2週間ヘヒト王国へ護衛で行くことも書かれており土産を楽しみにしておいてほしいとあった。
「まあ…どんなお土産かしら?」
ギーゼラは紅茶を入れながら
「まぁお嬢様…とても嬉しそうですね!」
「ええ?そ、そうかしら?」
思わず顔が綻ぶのは何故かしら?
思わず心が暖かくなるのは何故かしら?
でも…王女様と一緒の旅なのよね…。
王女が政略結婚すると言う噂も夜会では出回っていた。レーア様はやはり年下美少年好きでありかなり手を出されてその度に彼女の怖い執事がお仕置きしているとの噂も聞いた。
クラース様は大丈夫かしら?
別の侍女がまた手紙を持ってきた。なんと!王家の家紋付き!!
「何?どういうこと?何故私に?何か無礼でもあったのかしら??」
思い当たる節が無く恐々と手紙を開けると…
差出人は王女様で船上パーティーの招待状であった。どういうこと?ヘヒト王国の王子に会いに行くのではないのかしら?
私はヴァイダル団長の代筆の手紙と若干内容が違うことに違和感を覚えたが直ぐにお返事をお書きしドレスの手配をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます