第5話 王女の護衛騎士になった
この国の第一王女レーア・リーゼル・ディングフェルダー様の部屋の前に俺は立っている。奥の寝室からめっちゃ男女のイヤらしい音声が漏れてんだけど!!
何なの!!?
俺は何でこんなとこにいるんだろう!!?
*
それはソーニャ嬢をあの日見送った後のことだ。俺はヴァイダル団長に呼ばれて団長の執務室に行くとなんと王女様とその少年執事が待っていて…どうやら俺がソーニャ嬢を追いかける際に声をかけた相手が王女様と知り、俺は一気に青くなった。
え?不敬罪?鞭打ちの刑?
震えていると王女に顎を撫でられ何か舌舐めずりしてる。執事は何か俺を睨んでた。
何?
団長は盛大なため息をつくと
「クラース…王女様がお前を専属の護衛騎士に任命された。明日から王女付きとして任務を全うするように」
と言われた。
「は…はい!!?」
と俺がキョトンとすると
「先程の試合で貴方優勝なさったでしょ?私の護衛に相応しいと思ったの!ふふ、クラースさんでしたわね?おいしそ…じゃなくて…明日からよろしく頼みますわ!朝6時に部屋の前で待っていなさい!」
*
と王女の部屋の前に時間通りに朝っぱらからやってきたのだが、とんでもない展開になっとるがな!ノックしようとした手を慌てて止めたよ。何つう姫さまだ!!
わざとか!?
確かレーア様って隣の国のクソイケメン王子と婚約決まってなかった!?
まだあるわ…噂で知ってる。
レーア王女は年下の少年好きだって!
執事もあれ絶対年下だし、俺のことも見た目美少年だから護衛騎士にしたんだ!
美味しそうとか言おうとしたの聞き逃してないぞ!?
やだやだ!そのうち王女に喰われそう!!
ふとソーニャ嬢の笑顔が頭に浮かび俺はふやけた。
ああ…会いたいなぁ…どうしてるんだろ…。あ、朝早いしまだ寝てるか!
ね…寝て…ソーニャ嬢の寝姿ってどんなの!!?どんな寝巻き?
と想像してるところでようやく着衣を正した少年執事が出てきた。ちらりと中の様子を見ようとしたら遮られた。少年からはもちろん汗臭い匂いが漂いまくっておった。
しかも睨まれて
「…お早いですね、クラースさん…しかも聞き耳とは!」
聞きたくて聞いてねーわ!誰がお前らのヤラシイ情事なんか聞くかバカ!
「は?いや、王女様が朝来いっていうから…いやどうもすみませんお邪魔して…ちょっと早く来すぎちゃったみたいで…次からは気をつけます」
と一応謝ると
「……これだから庶民出の騎士は…ゴホン…。勘違いしないでほしいけど、王女様に潤の教えをする相手は僕で充分だと言うことを!君は姫のそういう相手ではないことを覚えておくんだな!」
と睨まれた。
何が潤の教えだ。カッコいい言い回しすんなクソガキが。頼まれてもやだわ!
しかも…俺、なんか睨まれてばかりなんだけど?つか、この執事くん王女に本気だろ?
「あのー…執事様…」
「アスター・アウレール・クラネルトだ!17歳だ!おじさん!僕は侯爵家次男だ」
と睨まれた。ああ、はい、お前よりも若くって爵位も高いってか?はいはいお貴族様!
わざわざ嫌味たらしくおじさんゆうな!
「言っときますけど俺には婚約者もいるんですけど…王女様の遊び相手にはとてもとても!お断りしたいと…」
と言ってると王女様がガウン一枚でヤラシイ色気撒き散らしながらやってきて慌ててアスター君が前に出た。
「レーア様!!直ぐに湯浴みを用意しますから!!待っていてと!!こら!お前!王女様を見るんじゃない!」
そんな姿にしたのお前じゃん。見るなも何も見てくれと言わんばかりだぞ王女様も。
レーア王女様は汗ばんだシルバーブロンドの髪をバサリと靡かせアスターくんを無視して
「あら…いい子ね?ちゃんと約束を守って朝来てくれたのね?私のイヤらしい声を聞いてくださった?うふふ?もちろん秘密よ?私にも婚約者がいるもの…。そして貴方もね?」
つっとアスターを押し除け指先で俺の心臓辺りを撫でた。
「…あのぉ…すみませんが俺は真面目に護衛騎士をやりたいんで火遊びはアスター様とやってくださいね?俺は無理ですから。もちろん秘密にいたしますんで」
と言うと王女様は面白くないのかちょっと睨んだ。
「貴方の婚約者って…調べたけどあの…有名な怖い顔の伯爵令嬢ソーニャ・クリングバルさんでしょう?笑っちゃうわ!お見合いも連続失敗!ま、あの顔じゃね!!」
いつの間に調べた!?
ていうか大きなお世話だな。
ソーニャ嬢をバカにすんな!
「貴方脅されてるの?伯爵に私から言ってあげましょうか?それともソーニャ嬢に直接?泣かされたのなら慰めてあげてよ?」
「レーア様!!」
アスターくんは震えながら怒りを何故か俺にぶつけ睨んでくる。いや待って?誘惑してるの王女様だから!!何で俺が悪いことになるの?美少年顔だから?ごめんね?美少年顔で!
でも顔に傷つけるのだけは勘弁してください!
「ふふ…アスターったら…ヤキモチ妬いて可愛いのね?もうー…一緒にお風呂に入ってあげるから♡」
「レーア様…♡」
おい人前でイチャイチャし出さないでくれないか?俺はコホンと咳払いをすると
「アスター様、その前に俺の仕事の予定ちゃんと教えといてくださいよ?」
と言うとアスターくんは睨み
「ええ…もちろん…レーア様先にお風呂へ。彼と予定を話して参ります!」
と王女様を部屋へ押し返した。扉が閉まると本日の予定やらを教えて護衛騎士として付き従うのと
「もちろん常にレーア様の側には僕もいますことお忘れなく!」
「いや…だから俺は王女様に気はありませんて!」
と言うとアスターくんは
「はぁ?そういう騎士は過去何人もいたんだ…そして皆レーア様がおつまみなされた…。僕は嫉妬でおかしくなりその騎士の始末をするのが大変なんだ…判るよね??」
とアスターくんは笑った!!
げええええ!!
おつまみとかそれは王女様のせいだろ?
俺の前の騎士もきっと少年騎士だったんだろうなあ!!そんでこの執事に…。
想像するとゾワッとした!!
「もももちろん!俺は王女様の護衛騎士以上のことはしないし!アスター様の邪魔もしませんので!!ご安心くださいませ!!」
ビシッと言うとアスターくんは
「おじさん…判ってるようだね?もし僕のレーア様にみだらに近付いたりしたらその首海に捨てて魚の餌にしてやるからね?夢夢お忘れないように!」
と物凄い嫉妬でキラリと懐に忍ばせている短剣を見せたのである。怖い。
「し、しかし…アスター様は…その…王女様の婚約者のことを知っていらっしゃいますよね?隣国の第二王子にお嫁に行くとかで…」
するとアスターくんは勝ち誇ったように
「は?王女様が年上の男なんかに靡くわけないでしょう?適当に政略結婚なさるだけのこと。内密に僕の子ができたら王子の子と偽ると約束していますし、王子も王子で幼い頃からの想い人がいるらしくその方を側妃にしてその方とのお子を楽しみにしているらしいです」
とのとんでもない内情を告げられ恐ろしくなった。
王女→ビッチ年下美少年好き
アスターくん→腹黒少年執事
王子→偽装結婚未来の本命側妃とラブラブ
という図が頭に浮かんだ。
絶対こいつらに仕事以外で関わらんでおこ!!
と俺は深く誓った!!
「もちろん秘密は守ってくれるよね?大丈夫です。ちゃんと向こうの王子もこの計画には賛同していただいておりますから。君さえ秘密をもらさなければ余計な犠牲は増えませんからね?」
と脅された。こっわ!!
「も、もちろんです!!アスター様!ああ、そう言えばぐ、偶然にもアスター様も隣国のマーティアス王子と同じ紺色の髪に透き通る蒼の瞳を持っていて…いい一見したら産まれたら国民もううう疑わないでしょうね!!」
するとアスターくんはニヤリと笑い、ポンポンと俺の肩を叩き
「墓場までその秘密守ってくださいね?」
とにっこりして背筋が凍りついた。恐ろしい奴だ。
部屋の中からは王女様の甘えた
「アスター!早くうん♡」
みたいな声が聞こえている。怖い!!
*
ようやく王女様の午前の予定が終わり(お友達令嬢とお茶してるだけ)昼になる。
護衛騎士は昼食時も周囲に敵がいないか気を配らないといけない。(あー…鳥が鳴いてる…平和ー)
近からず遠からずと言う距離感で部屋から執事との甘い昼食声が聞こえようが我慢しとかないといけないのだ。(あー…耳栓ほしーい)
早く1日が終わってほしい!!
何度か護衛中王女様にちょっかいかけられるが俺はそれを交わした。執事が笑顔で睨んでくるし。
そしてようやく王女様が執事と寝静まった頃俺は自分に与えられた部屋へと戻るという生活を繰り返していた。もちろん夜は別の夜番の護衛が代わりを務める。むしろそっちのが毎晩可哀想だがそいつはイーヴォ・ライナー・オフターディンガーというがむしろエロいの好きなので歓迎らしい。交代の時は嬉しそうに親指立ててた。お前…ちゃんと仕事しろよ?
心休まれないなぁ。早く休みにならないかな。
ソーニャ嬢はもう寝たかな?……。
俺は机の引き出しから手紙を書こうと紙を出してなんて書いたらいいのか迷って結局書けずに仕舞う。
恋文とか…書いたことねー!
てか…ソーニャ嬢とまた会って下さいと言っといて中々会えないとか!
窓から見える月に向かい一人呟いた。
「会いたい…」
*
夜会の噂でクラース様が王女付きの護衛騎士となったと聞いた。もちろんクラース様ファンの令嬢たちがコソコソ話していたのを聞いたのだ。
それなら忙しくて会えないのも判るわ。
王女様は美しいし、年下好きというのは結構有名だった。
もしかしたらクラース様も既に王女様と火遊びを!!?顔だけならあの方は間違いなく王女様のストライクゾーン!
そんな風に思い私はバチンと自分で自分の頰を打ち周りが一瞬ざわりとしたが気にしない事にした。
そもそも会ってくれると言ったのは同情でもクラース様からの言葉に私は嬉しかった。
嬉しかったけど…。
「手紙くらい…欲しいわ…」
とバルコニーに出て月を睨んだ。
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