第8話 初めての体験

 ようやくメクリンは、チンギス・カンと会うことになった。チンギス・カンの第2オルドに呼ばれたメクリンは、チンギス・カンと、隣に座るクラン皇后にあいさつをした。

 すでにハッサンから、遠路やってきたことを聞いていたチンギス・カンは、クランの下でゆっくりと疲れをとるよう命じた。チンギス・カンが退出すると、クランはメクリンに色々質問していった。

 その夜、チンギス・カンはクランを抱いた後、おもむろにメクリンについて問うた。

クランの答えは明快だった。

「暗殺者ではないです。また、美しいだけでなく、きわめて頭の切れる方ですよ。知識が豊富というわけではなく、知ったことから色々なことを推測できる力があるのでしょう」

そういうクランも、ただの美女ではない。

 刀は折れ矢が尽きたメルキト部族の首長が、降伏の証として献上したのがクランである。ナヤアという家臣が、残敵に襲われないよう、クランを3日3晩匿ったのだが、これにチンギス・カンは激怒した。

「どうして早く自分のところに連れてこなかったのか」

クランを犯した罪で、ナヤアを処罰しようとしたのである。

 これに対し、クランは、かばってくれたナヤアに対し、チンギス・カンの言は非礼極まりないと言い放ち、自分が処女であることを証明するといって、チンギス・カンに確かめさせたという。10代の女の子が、股を開いて自ら処女膜を破き、指に付いた血をみせたのだから、豪胆とはこのことであろう。

 チンギス・カンは、クランを2番目の皇后とし、寵愛した。クランは4人の子を産んだ。

 さっそく次の日、チンギス・カンはメクリンを呼び寄せた。初めての体験だと思うが、相手の望むことがよくわかっているようだった。

 チンギス・カンは、左右の胸をまさぐりながら、メクリンに聞いてみた。

「右と左のどちらが魅力的かな」

メクリンは、一考もせずに答えた。

「右は華やかで、楽しいものばかりです。左は、じめじめしていて、あまり好きではありません」

左、すなわち金朝との戦役はそろそろ切り上げ、右、つまり西の西遼とホラズムシャー朝への遠征を考えていたチンギス・カンは、次の会合で、耶律阿海や石抹明安らの軍を除き、全軍撤退を決定した。

 メクリンは、チンカイ城の威容を見て、チンギス・カンの関心が西に向いていることを、察知していたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る