第4話 美しき姫君
少女は、父親の目からしても、美しかった。髪は黒すぎず、肢体は細く、しかも強そうである。健康で、聡明な娘を、誰と結婚させようかと、妻と思案していた。別の谷に住む妻の実家の一族の男の子の中で、誰が一番いいか、悩むところだ。
少女は父に、ハッサンがやって来ていることを伝えると、父は、
「お兄ちゃんを迎えに行ってくれ」
と言った。少女はすぐにまた駆け出して行った。ほとんど崖のような坂だが、みるみるうちに登っていった。
ハッサンは、行き先から向かってきた少女に、眼を見ずにあいさつをした。
「姫様にはごきげんうるわしゅう」
姫様と言われた少女は言った。
「こんにちは、ハッサン。まだ初夏だというのに、もう来てくれたのですね。でも谷には売れるものはないのよ」
ハッサンは、意を決したように少女の顔を見た。
「姫様はお美しくなられました」
少女は不思議そうに、
「もう数え10歳を超えたのだから、お嫁にいきなさい、とでも言いたいの」
と応えたが、それを聞いたハッサンは二の句が継げなかった。ハッサンは少女に、自分の頭の中を覗かれている気分になった。
メクリンの夏営地は、険しい山脈の中にある草地で、草地の東側にある屋敷の前には広場があった。毎年、秋になると、隊商がやってきて広場に市が立つのである。
少女とわかれたハッサンは、広場に着き、従者に天幕を張るよう言いつけた。すでに、族長は待ち構えていた。
族長はハッサンに単刀直入に聞いた。
「どうしたのかな」
ハッサンは言った。
「たいへん申し訳ない。この償いは、全力でいたします」
族長は、想像を絶する未来が待ち構えていることを知った。
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