第8話 ガゴーンと地下世界

 広大な地下世界に住んでいるのは、今のところ暗黒魔界からやってきた皇太子エドワードと1万人の骸骨兵団だけです。エドワードの築いた巨大な城も、地下世界の中では米粒ほどに小さく、広大な森や草原のどこにあるかわかりません。

 エドワードは思いました。… ここは住むには出来すぎている。

 地下世界に突然広がっている巨大な空洞世界は、本来単なる暗黒の洞穴のはずが、太陽が照って青い空があり地上には植物が茂っている。生命の樹も無いのに…

 太古の時代にガゴーン様が造ったのではないか… 星の中心に穴を開けて、マグマの太陽を造るなんていう途方もない事はガゴーン様にしかできない。

 ここは食器棚に仕舞っている大事な食器のように、ガゴーン様がちっごランドの危機に備えて、住民が移住できるための控えの世界ではないだろうか。…


 ある日、ガゴーンにその事を訪ねてみようと思った時、突然エドワードの頭の中にガゴーンのテレパシーが聞こえました。

「シュミだよ。庭いじりさ。恥ずかしいから誰にも言っちゃダメだよ。」

 シュミ…なのか。でも誰にも言わない様にしようと思ったエドワードでした。


 ということで昨年の事、地下世界に巨大な水路や湖の掘削が終わった後、ガゴーンはその強大な超能力を使い、異次元空間に穴を開けて空間通路でチッゴリバーと地下世界を結びました。そしてチッゴリバーに大きな影響が出ないように1年かけて少しずつ水を地下世界に流し込みました。

 それは大ナマズ族のためでもあるのですが、実はガゴーンが以前から考えていた事でした。

 … 地下世界の植物をもっと繁茂させてきれいな花をたくさん咲かせたいね。

 地下世界をもっと色とりどりの美しい世界にしたいね。


 地下世界ではマグマの太陽のおかげで大気循環が起こり、空には雲が浮かび風や雨も存在します。森に隠れていますが小さな池や小川も実は存在します。

 そして数十億年かけて植物は少しずつ繁茂し地下世界を覆いました。でもそれだけではガゴーンは物足りなかったのです。

 … 何か美しさに欠けるね。… んん、花がもっと欲しいけど、風だけでは受粉が弱いんだね、やっぱり。花粉を運ぶ虫がいるね。それから水ももっとあった方が良いね。…ふんふん、蝶はきれいだからはたくさん居たほうがいいね。たくさんの花と蝶々はなかなか景色がいいね、ふんふん。


 ガゴーンは一日の労働が終わると、楽しい事を考え、それの実現を考えてくつろぐのが日課でした。

 …んっと、木の実を食べて種(たね)を運ぶ生き物も増やした方が良いな…

 でも、鳥は進化して言葉をしゃべると騒がしくなるから、やっぱり無口な昆虫がいいね、ふんふん。植物の実も昆虫に食べてもらおう。それがいいな。

 … 海はいらないね。新たな生き物が誕生して進化すると面倒くさいから。きれいな植物と共生する昆虫だけでいいね。ふんふん …


 チッゴリバーからガゴーンが地下水路に流し込む水の中には、たくさんの水草や小さな水生生物、小魚や稚魚が含まれていました。たまにサラマンダーやアリゲーターなど大型種の子供やオタマジャクシなどが混じると、ガゴーンは瞬間移動で元の棲家やコロニーに戻してあげました。

 地下の水路や湖の巨大な穴にガゴーンが注ぎ込んだ大量の泥水はやがて沈殿し、繁茂した水草により数年かけて水は浄化されました。そして水草の中でたくさんの小魚や水生生物が繁殖し、それらを食べていろいろな稚魚が成魚になって行きました。

 突然現れた水辺は昆虫に繁殖の場を与え、増えた昆虫を媒介として植物には多くの花が咲きや実がなる様になりました。

 ナマズ族がまだ知らない間に、ガゴーンの望む生態系が少しずつできていったのです。そしてそれはナマズ族にとっても、競争相手と争うことなく餌の魚や憧れの昆虫を食べることができる理想の環境でした。

 でも生態系の形成はまだ一部に過ぎないので、大ナマズ達は当分空腹に耐えて自分たちの国造りをしなければなりませんでした。

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