第7話 王国の映像

 大ナマズ族のトンネル工事に住民や軍が参加して順調に進むようになった頃、チッゴリバーの主(ぬし)のどん兵衛爺さんが豊穣大地のガゴーンの元を訪れていました。どん兵衛はガロンに頼まれた地下世界の大ナマズたちの棲家の建設についてガゴーンに依頼に来たのです。

「フハハハハ、やあやあどんちゃん♪」

 ガゴーンが笑いながら珍しく言葉を発して迎えてくれました。 

「やあガゴーンちゃん、お久しぶり♪」

 偉大なちっごランドの守護神ガゴーンをちゃん付けで呼ぶのは川の主のどん兵衛爺さんだけです。

 実はガゴーンは太古の昔に生まれたので、どん兵衛の方がはるかに若いのです。でもどん兵衛が3000年ほど前から“川の主(ぬし)のどん兵衛爺さん”と呼ばれるようになったために、ガゴーンは“爺さん”よりは自分を若く見せようと思い、突然どん兵衛に向かって「ガゴーンちゃんでいいよ。」と言ったのです。

 最初緊張してガゴーン様とよんでいたどん兵衛も、ガゴーンちゃんでいいなら全然そっちの方が話しやすいと思いました。


「デザインがいまいちだね。」

 訪ねて来たどん兵衛に向かってガゴーンが突然言いました。

「え!なんじゃいな???」

「ナマズ族のデザインはいまいちだから、僕が作ったよ。宮殿を中心にして放射状に街を造るんだよ。ふふん、かっこいいだろ。♪」

 ガゴーンが少し得意げにニヤリと笑うと同時にどん兵衛の頭の中に地下世界の美しい光景が浮かびました。

「ワーオ!」

 ガゴーンがどん兵衛の頭の中に地下世界の光景となまず族が住む国全体のイメージを送ったのです。それはどん兵衛が初めて見るとても美しく不思議な立体映像でした。

 地下世界は巨大な地下の空洞なので、地平線がありません。周囲の景色は遠くに行く程せり上がって行きます。そして遠い山や森は薄く青白くなって、そして薄っすらと空と交わって見えます。

 地下世界の端っこは、巨大な岩盤の壁になっているはずですが、それははるか遠くなので、空気の透過のため白っぽくなってほとんど見えません。地面と空が白っぽくつながって見えるのです。

 空は青く、雲が浮かんでいます。地上と同じように空に輝く太陽は、実はこの星の中心に開いた穴から見えているマグマの炎です。だから地上の太陽より赤っぽく、そして表面は炎が揺らいで見えます。でも地上はポカポカとちょうど良い暖かさなのです。

 地上と全く違うのは、太陽が空の中心から全く動かない事です。

 したがって、ずっと一日中昼で、夜がありません。というか一日というものが存在しません。だから植物は草花でもどんどん育って10mくらいになります。

 高い位置にある花の蜜を吸うために、昆虫も大きく強くなっていました。


 ガゴーンがどん兵衛に見せた地下世界の立体映像は、最初、高空から全体を見渡していました。そこには緑に覆われた地形がはるか彼方まで広がり、遠くなるにつれてだんだん斜面を登る様に高く上がっていき、最後は空中に消えていました。まるで巨大な器(うつわ)の底のようです。

 足元のはるか真下を見ると円形の蜘蛛の巣のように広がった水路のような模様が見えました。

 それからどんどん高度を下げて、森の樹木すれすれになるまで下がると、今度は水平の超低空飛行になりました。いろいろな森や草原を飛び越えると、大きな川のような真っ直ぐの水路の上に飛び出しました。

 そしてこの巨大な直線の水路に沿って右に膨らんだり左に膨らんだりしながら飛行して行きました。

「わーお!」「ひゃー!」「すごいすごい!!」

 日頃は落ち着いているどん兵衛も、頭の中の超低空飛行の映像に、まるで自分が飛んでいるように興奮して歓声をあげました。

 飛行している直線の水路の左右には、直角に横切るように大きな水路が通り過ぎたり、水路に囲まれた広大な四角い地面も次々に見えました。四角に区切られた地面にはいくつもの森や公園、そして湖があり、湖の周囲にはまるで一つの街のようにたくさんのきれいな建物が建っていました。

「建物だ!たくさんの建物が見えたぞ!街だ!すごい!」


 そして、水路網の中心にある巨大な湖の上に出ました。

 その湖の中央に島があり、大きな建物が立っていました。全体の中心に立っているのでナマズ族の宮殿のようです。

 その建物はナマズの顔のようにも見えるユーモラスで奇抜なデザインでした。

 宮殿から周囲を見ると、湖から12本の巨大な水路が放射状に伸びていました。高空から見た蜘蛛の巣模様の中心に宮殿はあるということです。

 今度は中心から真っ直ぐ高度を上げていきました。そして広大に広がったなまず族の円形の王国を俯瞰できる高さまで上昇した時に、はるか遠くには暗黒魔界の皇太子エドワードが築いた巨大な城が米粒のように小さく見えました。


 ふわっと映像が消えると、興奮したどん兵衛が叫びました。

「すごーい!すごい!すごい!さすがガゴーンちゃんだねー!まるで本物みたいな街だ!」

「フンフン、本物だよ。現実の地下世界を見せたんだよ。まもなくガロンのトンネルが貫通だからね。」

「ええー!!も!もう実際に地下にナマズ族の国ができているのかい???」

「去年、地下世界に造ったよ。ナマズ族のデザインが下手なので、僕がデザインをしてね。ガバガバ―!って、水路を掘ってね。後はレイバーピープルが地下世界にたくさん出かけて、建物を造ったよ。」

「ガバガバ―って、あんな巨大な水路を簡単に言うね。」

「簡単だよ。その後、レイバーピープルが建物に水を入れたので、もういつでもナマズ族が全部移住しても大丈夫だよ。フンフン」

「…」ドン兵衛は驚きのあまり言葉が出ませんでした。

 …ガゴーンはやっぱりガゴーンだ…

「ガロンは魚の王だから水から上の事はあまりわからないよ。だから街のデザインは全然へたくそだったけど、どんちゃんの教え子はよく建築を勉強してガロンの街を芸術作品の様にすてきにイメージしていたよ。

 今見た地下世界の街は本当はその子のデザインが元さ。僕がもっとすてきにデザインを修正したけどね。」

「え!教え子ってもしかしてアーリーンのことかい?」

「フンフン、地下の街の湖や水路には水を3/4くらい入れてるよ。

 湖や水路が空っぽだと、ガロンのトンネルが貫通した時にいきなりチッゴ・リバーの水が大量に流れ込んで、チッゴ・リバーの水位が大幅に下がって、地上が水不足にもなるからね。みーんな困るよ。

 アリゲーターやサメなどその他の種族などが根こそぎ地下に流れ込むよ。せっかく造ったナマズ国もあっという間に争いの場になって、今と同じさ。」

「え!そこまで誰も考えつかなかったよ。確かにサメやアリゲーターまで入って来たら今と同じだよね。… 」

「それに掘ったトンネルも水圧で壊れるからね。

 でも今は水がすでに3/4くらい入っているから、いつでも大丈夫だよ。貫通はもうすぐさ、ガハハハ。」

 …どん兵衛はあいかわらず感心するばかりでした。

「どんちゃんはこのことを言うか言わないか好きにしていいよ。

 そんな穴掘りよりその後の国づくりが大変だから、引き続きガロンを助けてやってね。ナマズ族はもっと発展するよ。どんちゃん、よろピー♪」

「そ、そうだね。今日はありがとう。」

 ガゴーンはもうトンネルのことなんかより遠い未来を見てるんだ…

 どん兵衛はなんだか楽しくなって帰って行きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る