第20話 Spring has come(20)
「たしかに・・」
斯波もそっと口を開いた。
「オヤジとオフクロが一緒になったのは、間違いだったな。」
ふっと顔が緩んだ。
「・・清四郎、」
彼ができてしまって、母親の懇願もあり
何となく結婚することになってしまった。
そんな息子からその言葉を言われて
さすがに父は絶句した。
「ばあちゃんがどーしてもおれを産んで欲しいってオフクロに頼み込んだって聞いた。 斯波の跡取りが欲しかったんだろうって・・今はそう思うけど。 実際、オヤジはオフクロのことを本当に愛していたわけじゃないし。 生まれてきたおれだけを籍に入れればよかったわけで。 愛してもいない二人が夫婦になるってことが、どんだけ罪だったことか。 おれだけじゃなく・・オヤジとオフクロも。」
歪んでいた家族を思い出した。
「オフクロも家に収まってられる人じゃなかったから。 しょうがなかったのかもしれないけど。」
「だから。 もう結婚はしないと決めた、」
父は
その不幸の原因が一番わかっている・・
斯波はそう思っていた。
「おれも萌香も。 生まれて来なければよかったんじゃないかって家庭に育って。 荒んだ家庭しか知らなかったから。 家族の幸せが本当にわかるんだろうかって・・ずっと結婚をすることができなかった。 子供ができたってわかっても、正直、一瞬戸惑った。 おれが父親になれるのかって。」
斯波は本当の気持ちを父に投げかけた。
「でも。 どんな偶然にしろ、おれたちがこの世に生まれてこれたのは、親がいたからだ。 それは感謝したいって・・おれたちは思っている。」
父の表情を見やった。
「おれは萌香の寂しさはわかるし、萌香もおれの気持ちをわかってくれる。 おれたちが出会えたことが神様がくれた一番の幸せだ。 もう、親のことがどうとか、そんなことはどうでもよくて。 おれたちが二人で家庭を作って、そして・・子供を育んでいこうって。 そう思えた。 家族は、そこにいて一番ホッとできる場所で、一番幸せな気持ちになれる場所だから。 難しいことは考えずにただその場所にいたいって・・」
斯波は自分で自分の心の中を
父にさらけ出しながら
胸の中が熱くなる。
「・・オヤジは今、そういう中にいるんじゃないの・・?」
もう
この父が憎いだとか
そんな風には思えなかった。
ただ
不器用で無骨な
男なんだと
「んじゃあ、八神は南と鏡花堂に打ち合わせに行ってきて。 玉田はオケに新しく入る子たちが今日からだから。 ちゃんと指示してやって。 」
斯波はテキパキと部下たちに仕事を指示した。
「あ、はい・・」
3人は何だか不思議な気持ちになった。
「斯波さん・・なんかあったんスかね? 気合入ってましたね、」
八神が出掛けに南にコソっと言った。
「うん。 いつもはボソボソ言うだけなんやけどな。」
南もコートを着ながら言う。
「ま。 お父ちゃんになるねんから。 張り切りたくもなるって。」
そして笑った。
「って。 おれも最初はそう思ってたんですけどね~。 結局、あんま変わんない・・」
八神も笑った。
父が
再婚をしたと自分から電話をしてきたのは
それから1ヶ月ほどあとのことだった。
いつものように事務的に。
本当に一言だけだったが
斯波はあの時、自分の気持ちを全て父にぶつけられて良かった
と、思わずにはいられなかった。
幸せは
つながる。
自分と萌香だけではなくて
自分たちをこの世に送り出してくれた
『家族』
にも。
-----Fin
My sweet home~恋のカタチ。9--mint green-- 森野日菜 @Hina-green
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