第3話 Spring has come(3)
どーしよ・・
夏希は萌香のことが心配でどうしようもなかった。
いてもたってもいられずに
高宮が帰ってくるのを待って、事情を話してしまった。
「栗栖さんが?」
高宮も驚いていた。
「そーなの! でも、明日っから泊まりで名古屋に出張に行くってゆーし。 本部長にも、斯波さんにさえもまだ黙ってるんだよ、」
夏希は一気に我慢していたものを吹き出すように言った。
「なんで、言わないの?」
「わかんない。 斯波さんには、彼が喜んでくれるか怖いって言ってたけど。 斯波さんは今まで家庭に恵まれずに育ってきて、結婚だってなかなか踏み切れなかったって。 だから、子供ができても喜んでくれないんじゃないか、とか・・」
「そりゃ・・ないだろ。」
「あたしもそう思うんだけど。 だけど・・」
高宮はしばらく考えたあと、
「でも栗栖さんが黙ってて欲しいって言うなら。 どうしようもないと思う、」
と言った。
「隆ちゃん、」
「きっと彼女になんか考えがあるんだと思う。 仕事のことも・・含めて。」
「でも~~。 心配だよ~、」
夏希はテーブルに突っ伏した。
そのころ
「え? 萌ちゃんが?」
「うん。 なんか泣いたりして。 ちょっと深刻そうだったけど、」
真太郎も南に昼間のことを話していた。
「え、なんやろ。」
南も首をかしげた。
「志藤さんの秘書のことかなあって、」
「え?」
「事業部をやめたら、栗栖さんが秘書をすることはなくなるだろうし。」
と言われて、南も初めてそこに気づいた。
「え、今までと一緒やアカンの?」
「取締役の仕事一本になったら、仕事の管理は全部秘書課だから。 今までも栗栖さんは事業部の仕事と両方やってくれてたけど、全然違う仕事も増えていくし。 二つの課にまたがっての仕事は無理だと思う。」
「そっかあ、」
「そのことで悩んでいるんだろうか、」
真太郎は宙を見上げた。
「あたしも萌ちゃんに聞いてみよう。 彼女、なかなか悩みとか話してくれへんやろ? 何でも自分で解決しよ思って。 まあ、昔からそうやったから・・今もなかなか人に頼ったりとかしてくれへんし。」
南はため息をついた。
萌香は悩みを抱えたまま、志藤と共に早朝から名古屋に行く新幹線に乗り込んだ。
新幹線の中の化粧室で、化粧を直していると
眩暈がした。
思わず壁に手をかけて、電車のゆれにも耐えた。
身体がだるくて、たまにこうして貧血気味になる。
医者には一度行っただけで、まだ母子手帳ももらってきていない。
おなかの子供がどうなっているのか
毎日心配ではあるけれど
正直
たくさんのことを考えなくてはならず、そのままになっていた。
ごめんね・・
そっとおなかに手をやった。
「なんか、顔色悪くない? だいじょぶか?」
戻ってきた萌香に志藤は言った。
「・・大丈夫です。」
と、微笑んだ。
何も考えなくていいのであれば
自分はこのまま志藤に課の異動を申し出たかった。
しかし
斯波のことや
自分の身体のことを思うと
それを口にしていいものか。
その迷いで
彼女の胸の中はいっぱいだった。
名古屋に着くと、志藤は何も言わずに萌香のバッグを持った。
「本部長、」
「なんかしんどそうやん。 疲れてるんちゃうか? こんなんおれ持つし、」
1泊なので、そんなに大きな荷物ではなかったが、
「そんな。 本部長に荷物を持たせるなんて・・」
萌香は気にした。
「別にそんなの気にせえへんて。 普通に男と女がこうして出かけたらフツーに男が荷物を持つやん、」
志藤は笑った。
「誤解を受けるようなことをおっしゃらないでください・・」
「ハハ、もう誤解もなにも。 周りのことなんかどーでもええって。」
いつもいつも
そう言って、何でも飄々と受け流して。
萌香はふっと微笑んだ。
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