驢鳴犬吠
「この先に俺達が求めている場所はあるのだろうか」とケン太が言った。
「さあね、知ったこっちゃないよ」とツネ子が答えた。
「アタシらに帰ることは許されない」とケイ子が呟いた。
「いずれにせよ、僕たちはどこかへ逃げなくちゃ」三郎がこうまとめた後、一人歌い始めた。そこにケン太、ツネ子、そしてケイ子が順に加わった。
とびっきりに明るい歌だ。その調べが皮肉に聴こえるぐらい、明るい歌だ。
外の光が見えなくなり、随分と経つ。 四人が進むのは、終わりの見えない、果てしなく冥いトンネル。周囲を照らす為の蝋燭とマッチは節約しながら使う。火の明かりを囲む食事が、四人の心に束の間の休息を与えてきた。
……きっと反響しているのは、現在只今の彼らの歌声だけではない。悲しみの殘響は、四人の喉を、心臓を、締め上げているのだろう。二度と訪れることのない眩しい過去は、見えない眼となり、四人の脳裏からこちらを、死ぬまで覗き続けることだろう。
それでも彼らは、はぐれないよう一列になり、手を取り合い、一歩先も見えない常闇の中を、恐る恐る踏み出し続ける。また性懲りもなく、愚かにも、進んでゆこうとする。
「きっとトンネルの先にも、僕たちが帰る場所はあるさ」ひと通り歌い終えた後、三郎の声が暗闇に響き渡った。
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