第4話 ホント、進歩が無い

 この理由は、後々自分の行動原理を考えた時に見つけ出した、いわゆる後付けの理由なのだろう。

 だから疑問系になる。


「セシリア……お前は何でいつもこう……」


 最近の俺は、セシリアの思考が少し分かるようになってきた。

 そりゃぁまぁ、今回みたいに「何故そうなった」と思う事も時にはあるが、顔を見ていれば大体「あぁ多分こんな事を考えてるんだろうな」とかは分かるのだ。

 

 そして、だからこそ思う。


(セシリアの起こす言動には、少なくとも一定の理由がある。でもそれは、あくまでも「セシリアの中で通る理由」に沿ったものだ)


 そして大抵の場合、その理由は常人の思考の斜め上を行くのである。



 今回だってそうだ。

 確かに『ベットの同じようにふわふわか』を知るためには、泥の山に向かってダイブするのが1番手っ取り早くはあるのだろう。


 しかしまず、何故泥の山を見てそんな疑問を持ってしまったのかが、俺には理解できない。


(でもまぁこれについては『そういう生き物なんだ』と思うしかないんだよなぁ)


 それが、セシリアの執事を目指す俺が、自分の責務を果たす為の近道だろう。

 だからまぁ、ここまでは良い……とは言わないが「俺はそんなセシリアのフォローをする為に存在してる」と思えば、許容範囲ではある。


 しかし、だ。


「普通は、そんな疑問を持ったとしても『ダイブなんてしたら汚れるから辞めておこう』って思うものなんだけどなぁ」


 そんな風に呟きながら、俺は深くため息をつく。



 そう、普通はそういう自制が掛かるものなのだ。

 

 しかしまぁ、こちらももしかしたら仕方がないのかもしれない。

 だってセシリアは。


(……いつだって自分の好奇心に忠実過ぎるんだ)


 彼女と出会ったあの日から、それなりの月日が経った。

 それに伴い互いの関係性だって変わり、知っている事や出来る事も増えている。


 しかしそれでも、彼女の行動原理はあの日から変わらないのだ。

 ……否、もしかしたら「進歩がない」と言った方が正しいかもしれない。


 だって普通、貴族として教育されて育った子供はこんな事しないだろう。

 みんな貴族としてのアレコレを学び、貴族らしさを纏って大人になっていく。

 今はきっとそういう時期の筈なのだ。


(……いやまぁ、他の貴族家の子供になんて会った事どころか見た事もないから、あくまでも想像の範疇でしかないんだけどさ)


 そんな事を心中で独り言ちながら、俺は自分の主人を見遣った。




 俺の献身のおかげでどうにか顔だけは綺麗になった泥だらけの少女は、俺と視線が合うと「楽しかった!」と言いながら何の屈託もなく微笑んだ。

 その顔に「ほんと、仕方がないヤツ」なんてつられて笑ってしまう辺り、俺も我ながら主人に甘い。


 しかしそれでも、結局「彼女のコレに代えられるものなんて何一つとして無い」と思えてしまうのだから、もうこれは仕方がないのだろう。


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