第5話 どうしようもなく煌めく、その黄緑に



『セシリアは、縛られている』


 そう言ったのは、俺の幼馴染だ。

 


 その言葉を聞いた時、俺は今まで自分の中にあった「何故彼女の執事になる道を選んだのか」という疑問の答えに光が当てられた気がした。


 セシリアは、確かに好奇心に忠実だ。

 そしてそれが揺れない物事に関しては、ひどく面倒臭がる傾向がある。


 しかしそれでも、彼女は『貴族にとって必要な事』を疎かにした事は無い。

 彼女はいつだって、領地と領民の為に考え行動する。

 そしてそれを苦にする様子も無く動くのだ。


 それこそ、献身というには優しすぎるくらいの熱量で。



 彼女はそれをさも当然のように行い、『義務だ』と言いこそすれそれを誇る様子は無い。


 それを『貴族という立ち位置に縛られている』と形容する事は、俺にとって非常にしっくりとくる物だった。



 そして、結局俺は。


(そんなセシリアの助けになりたいんだ)


 使用人でさえ「領民だから」と、献身の対象に入れてるようなヤツだから。

 そしてその献身の結果、人の未来を良い方に導いてしまったようなヤツだから。


 その言動に、俺自身救われたから。

 

(そんなヤツに、少しくらい手を貸す人間が居たっていい)


 彼女の背負う『義務』は重い。

 そして彼女自身、その『義務』を背負う事を「当然だ」と思いこそすれ投げ出す気なんて、彼女には毛頭無いらしいから。


(したい事ができる様に、俺が手伝う)


 意図を察し、フォローし、いつだって味方として側に居る。


 そんな執事に、俺はなりたいのだ。

 そしてそんな執事になる為には、彼女のどんな突飛さも忠実さも、その全てを受け入れてフォローする必要があると思うから。


「それで? 実験の結果はどうだったんだ?」


 聞いて欲しそうにしていた目の前の小さな主人にそう尋ねると、彼女の顔がパァッと華やいだ。


 そして、こう答える。


「ふかふかじゃなかったけど、私の形がそのまま土に残ったの!」


 そう言ったセシリアの、黄緑色の瞳がどうしようもなく煌めいていた。

 何故かは毛頭理解できないが、多分。


(それに見合う何かが、そこには在ったんだろうなぁ)


 思わず苦笑いをしながらそんな事を考えていると、「案の定」と言うべきか。

 セシリアは促されるまでもなく新たな好奇心を口にした。


「何故そのまま残ったのか、それがとっても気になるの!」

「じゃぁ昼からは書庫だな」


 目の奥に燦然と輝く、知識欲。

 その存在を見つけて、俺はすぐさまそう応じた。


 すると彼女は、これ以上に無い程の満面の笑みで頷いてくる。


 

 そんな彼女を眺めながら、俺は密かに安堵していた。


 幾ら彼女の突飛さに慣れているとはいえ、『泥んこ主人』なんて物は珍事以外の何物でも無い。

 そんなもの、1日に一度遭遇しただけでもうお腹いっぱいだ。


 だからこそ、午後からは書庫に篭って大人しくしてると言う彼女に、そしてそんな予定に導く事ができたという事実に、俺はホッと胸を撫で下ろしたのだった。

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