第3話 理由を聞いても分からない



 チラリと後ろを見遣ると、そこにはよく知った顔があった。


 ポーラ。

 彼女は、生まれた時からセシリア付きをしているベテランメイドである。


 そんな彼女は、思わず出てしまった俺の友達口調に指摘も何もする事なく、ただただ呆れ顔でそこに居る。

 

 そこから分かる事は、2つ。

 一つ目は、彼女に怪我の類は全くない事。

 そしてもう一つは。


(そんなにしょうもない理由なのか……)


 でなければ、いつもセシリアの突飛な言動を見ている彼女が、こんな顔をする筈が無い。

 


 ハンカチで頬をグリグリとしながら再びのため息を吐く。


 しかし他の楽しみで頭がいっぱいな今の彼女には、そんな俺の呆れに気付く気配など全く無い。

 それどころか、実にウキウキとした様子で「あのね、ゼルゼン!」と口を開く。


「昨日、雨が降ったでしょ?」

「あぁ」

「それで庭園の端の土置き場の土が柔らかくなってたの」


 そんな彼女の声に、俺は「ふむ」と考えた。


 

 庭園の端には、一度使った後の土が積まれている場所がある。


 花壇の植え替えの度に、土は一度花壇から出され、肥料なんかを混ぜ合わせてから再利用する。

 あそこはその作業を行うまでの間の一時保管場所なのだと、庭師の父が確か前に言っていた。

 

(……あそこは雨ざらしだった筈だ)


 ならば、昨日の雨で土が水を含んで柔らかくなるのも至極当たり前の事だった。



 と、ここまでは俺にも理解できる話だった。

 しかし彼女の話が突飛だったのはここからだ。


「だから飛び込んでみたの!」

「何でっ?!」


 あまりの驚きに、声が裏返る。


「『もしかしたらベッドと同じようにふわふわかもしれない』って思って?」


 何故そこで疑問系なのか。

 自分でした事だろうに。


 一度はそう思ったが、すぐに思い直した。



 ……否、多分思いついた瞬間に飛んだのだ、と。


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