第10話 三桃志演義
何層もの砦で構築されている鬼神輿は、各地で奪った金銀財宝により豪華に飾られている黄金の城。様々な対空兵器が配備されている上に、異変に気付いて飛び出してきた防衛鬼たちが銃や対空ミサイルを構え、SALに向けて撃ちまくった。
空中に曳光弾の軌跡やミサイルが引く煙の筋が伸び、対空砲が近接信管でおびただしい数の爆発を発生させ、鬼神輿周辺はア・バオア・クーみたいになった。
一応、元々が猿なので素早いという設定を今更生かして、見事に回避するSALから、インフルエンザウイルスを散布して対抗する雉子。しかし、数打ちゃ当たるの精神で鬼たちが撃ちまくった一発のRPGが遂にテールローターに直撃する。
「メーデー、メーデー、メーデー!こちらSAL877、SAL877、SAL877。メーデー!SAL877。鬼神輿上空でRPG被弾により飛行能力を喪失。墜落する!メーデー、SAL877、オーバー!」
緊急事態における国際規定に基づく正確なメーデープロトコルを発信するSAL。
メーデーとは航空機を始めとした各種交通機関で、非常にまずい事態が起きた時に使われる緊急コールサインであり、頭のメーデーコールは通常、三回が正しい。映画などではよく「メーデーメーデー」と二回に省略されており、その度に文句を言いたくなったりするのだ。
それはそれとして、SALコプターはテールローターを破壊されてぐるんぐるん回りながら墜落しつつあった。バナナホークダウンである。
イワンとナターリャは機内で必死に身体を支えるが、激しい回転と震動で、イワンの手に抱えられていた雉子の身体が、するりと抜けてしまう。
「しまっ……」
必死に伸ばしたイワンの腕は無情にも届かず。
「雉子ぉぉっ!」
機体の外へ放り出された雉子は、金色の砦に群がる鬼たちの中へと落ちていき。
熾烈な対空砲火を浴び続けたSALも限界を迎え、鬼統領が待つ
鬼たちが頑張って溜め込んでいた武器弾薬による誘爆が次々と起きる。
それなりの歳月と、莫大な予算、そして沢山の鬼たちの献身的な努力で築き上げられた鬼神輿。鬼インフルエンザで朦朧とする鬼たちの目の前で、彼等の積年の野望の結晶は爆発に吞まれ、脆くも崩れ去っていった。
赤鬼どんを失った青鬼どんも真っ青の泣きっぷりで、おいおい大泣きする鬼たち。あれ?青鬼どんを失ったのが赤鬼どんだっけ?ごめんちょっとググるね。
ググろうと「ないたあか……」とタイプしたところで、泣いたのは赤鬼どんの方だったと思い出したのでやり直す。
心の拠り所を失った鬼たちの泣きっぷりは、青鬼どんを失った赤鬼どんも真っ青だった。
「ぐっ……」
「大丈夫?イワン……」
炎上するSALの残骸の中から立ち上がるイワン。ナターリャの鬼術が墜落の衝撃から良い感じに守ってくれたらしい。
まだまだ爆発が続く
「イワン、ここは任せて先に行って……私、あなたにまた会えて嬉しかった」
鬼哭残り十七角を引き付けて自爆するつもりのナターリャが勿体ぶった言い回しで、寂し気に微笑む。
「ナターリャ……まさか、お前……!」
自爆するつもりのナターリャが自爆するつもりだと判ったイワンは狼狽するが、すぐに納得した。
「……判った。きっと、鬼統領への注射を成功させてみせる」
「約束よ?」
折角なので最後にもう一度、情熱的な別れの抱擁を交わし、イワンは、まだ爆発を続けて燃え盛る鬼神輿の残骸にの中に出来た道へと飛び込んでいった。
「……さあ、来なさい!」
ナターリャの叫びを合図とし、それまで律儀に抱擁を見守ってくれていた、かつての仲間の鬼たちが一斉に襲いかかってくる。
「裏切り者め!どうして裏切った!」「愛よ!」
愛ならしょうがない。
体色も能力も違う鬼たちと熾烈な戦いを続けながら、ナターリャは在りし日のイワンとの思い出に耽っていた。
――ふふふ、イワン=ストロガノフ……初めて出逢った時「ビーフストロガノフのストロガノフです!」って朗らかに挨拶してくれたっけな……あの時は二人とも純粋だった。共産主義国家特有の私有財産の制限にも負けず、ときどき闇市で手に入れた高級食材を惜しむことなく適当に放り込んだ闇ストロガノフを楽しんだわ。そして夜は素敵なストロガノフを交わして……ちょっぴりアブノーマルなストロガノフもドキドキしちゃったな。あんなのどこで覚えてきたんだか。
人生で最も素晴らしかった瞬間の数々が浮かんでは消えていく。
輝かしい思い出の一つ一つが、鬼哭たぶんあと残り十五角と戦う力になる。
マリッジブルー鬼とザ・ブリリアントグリーンは既に倒した。しかし、流石に鬼統領直属の精鋭。このまま全員を倒す事は叶わないだろう。
「頃合いか……充分に引き付けた。イワン……さようなら」
彼女は望んで
ナターリャは残り全ての鬼力を振り絞り、鬼の力の根源である鬼元素、オニウムを極限まで圧縮した時に起きる鬼分裂連鎖反応を引き起こし、鬼爆発を起こした。
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