第7話 桃星からの果物 M

 桃太郎たちは、突如としてこの場に現れ、黒鬼を一撃で倒した#dc143c鬼の、その深紅の身体に満ちる鬼力おにぢからと冷徹さに、背筋を凍らせる。


 #dc143c鬼の体色は、鮮やかな赤色。ついでに女性だ。

 彼女は数多の鬼の中でも強力で残酷な鬼として名高く、主に、特殊部隊や軍隊のような噛ませ犬役にになりがちな、強そうな組織をいくつも壊滅させてきた。


 あまりにもいくつも壊滅させて来たので、その返り血の量は東京ドーム三個ぶんにも及ぶと言われている。


 しかし、当たり前の様に、何かの量や広さの例えに東京ドームが使われるが、そもそも東京ドームのどの部分を差して言っているのか。良く判らないのだ。


 世の中の野球好きは、当然の様に日本中の人間が野球が好きと思っているフシがある。特にメディア業界の関係者だ。女子アナはちょくちょく野球選手とくっつくし、もしかしたらスポンサーや広告収入の関係で、球界との癒着や忖度が横行している結果なのかもしれない。


 連中は、日本中の人間を野球好きに洗脳すべく、隙あらばさり気ない表現の中に野球の知識を忍ばせ、野球が好きだと思い込ませようと画策しているのだ。


 因みに#dc143c鬼が広島カープのヘルメットよりも真っ赤なのは、返り血をたくさん浴びたからだ。


 そして#dc143c鬼の真の能力は、その絶大なホームラン級の戦闘力のみならず、巧みな論術を駆使して相手を言い負かし、泣かせるという恐るべき変化球だった。



「黒鬼っ!大丈夫か……!」


 折角仲間になりかけた黒鬼が頭にデッドボールを受けたみたいに倒れてしまったことで、桃太郎は#dc143c鬼に対して激昂する。その顔は正義の怒りに満ち、とても精悍だ。



「桃太郎様……かっこいい……けほっ」


 雉子はそんな桃太郎の横顔を見つめ、どきどきする。


 雉子……木々須雉子は、桃太郎に始めて出会った時から、その端正な顔立ちと、礼儀正しい振る舞いに惹かれていた。鳥インフルエンザという致命的な難病で空から落ちてきた雉子を、介抱してくれた事を思い出さない日はない。


「回想時空ノ発生ヲ検知。回想フィールドを展開、回想音ヲ放出」


 SALの多彩な機能の一つが、回想シーンを起こそうとした雉子の波動を感知し、回想結界の構築に最も適したほわほわ音を発生させた。回想シーンの途中に邪魔を入れさせないための高度な科学技術であり、回想が始まると、並大抵の事ではそれを破る事ができない、強力無比な守護領域が周囲を支配するのだ。


 びっくりするくらい大きい、ほわほわという音がして、全員が耳を塞ぐ。


 それはもう、びっくりするくらい大きい、ほわほわ感だ。


 皆が思っているよりも、びっ



 っくりするくらい、ほわほわの音だという事を判ってほしい。



「――はわわ……閉じ込められていたお屋敷から逃げ出したのは良いけど、よく考えたら私は難病であまり長くは飛べないのを思い出したの。気絶して落ちちゃう!」


 割と早い速度で真っ直ぐに桃太郎の顔面に直撃したのは、その数秒後。


 気絶した雉子が目を覚ました時、心配そうに雉子を抱える桃太郎の顔が間近にあった。


「ケーン!」

 思わず雉の素が出て鳴いた雉子は桃太郎の腕をつっつき、離れる。


「やだ、私ったらはしたないげほぉっ」

「大丈夫かい?私は桃太郎と言う者で。鬼を倒しに行く旅の途中だ」


 顔を真っ赤にし、真っ赤な血を吐いた雉子を桃太郎は優しく介抱し、仲間に加えたのだ。空から落ちた雉子は恋にも落ちた。優しいイケメンなので自然な展開だろう。


 #dc143c鬼の体色よりも、彼女が血祭に上げた憐れな特殊部隊たちの血よりも、もっともっと赤く頬を染めた雉子は、命の恩人である桃太郎の為に命を捧げようと誓ったのだった――。


「回想時空ノ終了ヲ確認。次回ヘ続ク」


 SALのアナウンスが、イニングの交代を告げた。


 物語は、大体八回の裏くらいだ。

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