第4話 桃果樹園でつかまえて

 破竹の勢いで快進撃を続ける桃太郎たちは各地で連戦連勝。その活躍は各地の新聞の一面を飾った。日本の誰もが待ち望んでいた救世主の登場に民衆は湧き立ち、道頓堀は人で埋まり、株価は急激な値上がりを見せ、空前の好景気で土地は高騰した。


 様々な言語の新聞がぐるぐる回ってバシーン!って見出しが出る。


 そのおかげで桃太郎達の活躍を知った鬼ヶ島の鬼統領は怒りを露わにし、金棒を振り回した。鬼統領は四年に一度行われる鬼選挙で選定される。今年で三期目に入る鬼統領の政策は大胆かつ強硬的で、「今日も元気にひと略奪」。をスローガンに各地への襲撃を繰り返していたのだ。


「小癪な!我らに歯向かうのか……!貧弱な人間どもめ!がおー!」

「いけない!鬼統領さまがご立腹だ!握りつぶせるものを!握りつぶせるものを!」


 荒れ狂う鬼統領を鎮めようと、周囲の部下鬼たちが右往左往して慌てふためく。不本意な出来事を経験すると、鬼統領は部下たちを憂さ晴らしに軒並み始末してしまうのだ。


 これは部下達にとってはたまったもんじゃないし、そんな事で貴重な人材を浪費する訳には行かない。幹部鬼の殆どは私立の鬼大学を出ており、それなりの教養とバランス感覚はそれなりに持っているので、鬼統領の怒りを鎮めるために、これまで色んなプランを試していた。美味しいたべものを与えてみたり、きれいなお姉さんを紹介してみたり、可愛いどうぶつと触れ合わせてみたり。しかし結局のところ、鬼統領は、何かを握りつぶすことが一番のストレス解消法らしかった。その事にもう少し早く気付いていればあんな惨劇は起きなかったのに……。


 握りつぶし甲斐があって、沢山駄目にされても支障がないもの。欲を言えば調達が容易で、更に、コストランニングが安価であればもってこいだ。大学出の鬼たちは試行錯誤の末、丁度いいものを遂に見つけたのである。


「落ち着きましたか?鬼統領さま」「うん」


 丁度いいものを思う存分握りつぶして満足した鬼大統領が頷いた。岩山の天辺を削り上げて作られた広場に、ぽつんと置かれた玉座に座る鬼統領の周囲の部下鬼たちは胸を撫でおろし、指にちりちりの胸毛が絡まる。そこに、鬼統領に絶対の忠誠を誓う懐刀、鬼哭二十四角きこくにじゅうよんかくの鬼たちが次々と現れた。


「鬼哭二十四角、八之鬼はちのき・赤鬼!ここに参上!」


 まずは赤鬼が華麗に虎パンをなびかせながら着地し、鬼大統領の前に跪いた。虎パンがめくれ上がりそうになり、危ない所だった。しかし肌が赤いので赤面しても気付かれない。端からは冷静に見える、クールな手強い鬼だ。


 次々と、派手な演出と共に、鬼哭二十四角が姿を現す。ある者は高空から舞い降りてスーパー鬼着地を決めたり、ある者は亜空間から思わせぶりに腕から出して、ズズズ……とゆっくり身体を出してみたり、ある者はもやもやした煙の状態からバシュン!って収束して鬼になったり、それぞれが持つ固有の鬼能力(鬼術)を駆使してやりたい放題の登場の仕方をする。そんな強力な鬼を二十四体も従える鬼統領の実力は、想像に難くないであろう。


 黄鬼が激しい電撃を放ちながら現れた。続いて、うすだいだい鬼がなんとなく続き、エメラルドグリーン鬼が輝くような笑顔で投げキッスを振りまく。紫鬼は観たままのイメージで毒を持っているらしく元気がない。その後にマリッジブルー鬼が続いた。新婚生活へ抱える不安を抱えながらだ。


 勿論、女性の鬼も居る。鬼と言えども女性の社会進出とか、色んな表現に配慮しなければならない。だけどボインボインのムッチムチである。

 

 想像してほしい。ボイン……っボインのムッッチムチだ。


 そして、多種多様な鬼たちがここぞとばかりに登場しきった後、黒鬼が名乗りを上げた。

「きゃつらの首!必ずやこの黒鬼が刈り取ってご覧に入れましょう!我らの鬼術にかかれば所詮は人間など、塵芥ちりあくた……。よしんば負けたとしても、黒い肌の鬼を複数人でボコボコにしようものなら、奴等は世間から叩かれ、社会的に抹殺できるでしょう。しかしこのくだりを掘り下げすぎるのは、あんまり宜しくないかもしれませんがね……ククク……ははははは!」


 なんか格好良さげな名前のついた、鬼の中でも最強の精鋭部隊の高笑いが、暗天と荒海に浮かぶ鬼ヶ島に響き渡った。

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