三章 終わりの始まり 3

大通りに戻り、学校を目指す一向。

パーティ構成は先頭から俺と、脳筋戦士のタカシ、お気楽天然コミュ障な旅芸人のミカ、同じくコミュ障気質の普通に可愛い僧侶……いや、賢者のユイ。

……この場合、俺は何の職に当たるのだろう?

賢者と旅芸人がいる時点で回復は間に合ってるし、攻撃ばかりでマジックポイントを垂れ流すタカシだけではDPS(Damage Per Second)的な意味合いで火力が心もとない気がする。

俺もバトルマスターとして火力貢献するか、魔法戦士としてタカシを補助しつつ予備火力として構えるのが最適解のような気がする。

ミカとは自由が丘のサッカーバーで、アジアカップの全試合を観戦した仲だ。

そこにはSSハウスの奴等も一緒だったから、俺に関する事情をある程度把握している。

だが……こいつは天然な上に主語が無いからなぁ……。

唐突に話を振られたり、疑問をぶつけてくることがある。

俺と、俺達にとって結構重要な事を平気でペラペラ喋るから、取扱注意な人物なのだ。

そうこう脳内RPGを展開している内に、またミカが空気も読まずに話しかけてきた。

「ねぇ、どうしたの?」

「どうしたって?」

「タカシだよ」

「ん? 俺がどうかした?」

「どうしたの?」

「いやだから、お前は話の内容を言えって、何度も言っただろ?」

いちいちツッコまないと会話が回らない。

ユイは無自覚であざとい上目使いで様子を見ているだけだし、会話を回すディーラーがいないのだ。

「タカシ、元気ないな~と思ってさ~」

俺がその様子を察して黙っていたことを、よくも聞いてくれたな……。

「そりゃあ元気も無くなるだろ。親父のツラなんか見たくもねぇんだから」

「喧嘩したの?」

ストレートに切り込んでくるミカ。

喜べ、お前はジャーナリストの素質があるぞ。

「喧嘩? 別に殴り合いをした訳じゃねーよ。ただあいつが俺を否定したってだけの話だよ」

「否定って何を?」

「あのなぁ……知り合ったばかりの奴に、そんな身の上話をペラペラ話すと思うか?」

「え~、教えてよぉ。知りたいよぉ」

ミカは首を振って駄々をこねる。

……あざとい。その声はあざといの塊ですわ。

義姉の猫なで声を思い出しながら、フルフルと揺れるミカのツインテール攻撃をウザそうに手で払うタカシに、俺は当たり障りない言葉を掛けた。

「お前が親父さんをどう思ってるかは知らないけど、俺の見た限りでは仕事に私事を挟み過ぎるだけの良いお父さんだと思うぞ?」

「淳……お前が何やらかしたかは知らないけど、金輪際、俺の前で親父の仕事の話はしないでくれ」

「分かった。なら代わりにタカシの話を聞こうかな」

「……は? 俺の話って?」

通学路を4人で歩きながら、俺は話を続ける。

「自己紹介の続きだよ。どの道この後の懇親会ではやる訳だし、今この場で自発的にしておいて損じゃないだろ? それに俺達と同じように、学校に来る道中で新入生同士声を掛けてお友達になる奴等も当然出てくる。ある程度密接な関係を築いておけば、後々動きやすくもなるだろう?」

「後々動きやすいって……別に俺は学校に友達作りに行く訳じゃないんだ。勉強しに来たんだよ」

「意外ですね~。タカシ君、如何にも頭悪そうなのに~」

空気の読めない奴が横から口を突っ込んできた。

「……よく言われるよ。実際頭は悪いからな。勉強嫌いだし」

「それでどうして六(ろ)十(と)学(がく)に受験を? よく受かりましたね? もしかして、これですか?」

ミカは右手人差し指と親指で輪を作り、裏口入学を示唆してきた。

こいつ……天然どころかただ性格悪い奴に見えてきたぞ。

「その点は安心してくれ。ずっと塾に通ってたし、受験前には一夜漬けして記憶したからな。無駄に時間の掛かった数的推理系と英文読解以外は楽に解けた。これでも、入試は19位で通ったんだぞ」

「はあぁぁぁぁ!?」

ミカの絶叫にユイがビクッと震えた。

俺も驚きはしたが、19位と聞いて少し安心した。

勝った!! 俺9位だもん!!

「わ……私201位なんだけど……頭悪いって嘘じゃん!! 騙したの!? 酷過ぎる!!」

お前……今年の合格者は240人だったから……下の下じゃないか!!

「騙すも何も、俺が頭悪いバカってのは事実だし、第一勉強嫌いな奴を頭良いとは言わないだろ?」

確かに矛盾ではある。

勉強自体は俺も好きではないし、入試を受ける為に仕方なく知識を取り込んだまでだ。

「第一、今時頭悪いだけのヤンキーなんて流行らねぇよ」

「タカシはヤンキーにあこがれてるのか?」

「おうともよ。不良少年達を更生させる熱血教師もののドラマの影響でな。俺も義理と人情をわきまえた強い男になりたいと思ったんだ」

「義理と人情ねぇ……」

「その割には、手加減の無い暴虐っぷりでしたけどね~」

「おい、ミカ。少しは大人しく聞く事は出来ないのか? ユイを見習え」

思わずツッコんでしまったがユイを巻き込んでしまった。

「……え……私ですか……?」

不意に話を振られて困惑するユイ。

会話どころか人間に慣れていなさそうな感じだ。

「いや、このメンツだと、一番普通の子って感じで安心だなと思って」

「……普通? よく分かりませんが、ジュン君が言うならそうなのかもしれませんね……」

どこか他人事に聞こえるのが気になるが、君呼びされて嬉しかった。

「ちなみにユイは入試の成績はどうだったの?」

俺は自慢するためにあえて自分の順位は伏せて訪ねてみた。

「……6位でした……」

「……はい?」

本来、疑問形として使われるべきではない言葉なのだが、今の俺には確認などの意味合いも込めて、この切り返しが定着してしまっている。

「……ですから……6位です……」

「お……俺、9位……」

「お……おい淳、お前強いだけじゃなくて頭も良いのかよ……!!」」

「いやいや、そんなことよりも、ユイが6位な事にビックリだよ!! 俺……自慢しようと思って伏せてたのに……悔し過ぎる!!」

「……悔しい? よく分かりませんが、ジュン君が言うなら――」

感情が外に出ない子だな……それに返事も使い回しだし。

「ユイ……ジュン……私を置いていかないで……」

ミカは涙目で訴えかけてくる。

「お前、問題文が読めないとかそういう訳ではないよな?」

「な訳ないでしょ? 日韓W杯が終わってすぐ日本に来たって言ったじゃん!」

「あぁ……そういえばそんな話してたな……」

「あの大会のせいで私の親は離婚したんだよ? マジで意味わからないよ」

「色々あったんじゃないの? 大体、当時は俺2歳だったから全く覚えてないよ」

「私は結構覚えてるよ。試合を見に連れてって貰った記憶があるから」

いいなぁ……そんな記憶があるなんて。

俺も息子或いは娘が出来たら一緒に公式戦を見に行きたい。

「んじゃあ細かい事は抜きにして、ミカは単純に頭が悪いと……」

「わあぁぁぁぁん!! ジュン酷いよぉぉぉ!! ユイも何か言ってやってよぉ!!」

「……へ? ええっと……何て言えばいいですか……?」

返答に困ったのか、ユイは無言でこちらを見てくる。

分かってはいるが、その目はやはりあざとい。

無自覚にやられると、自意識過剰な思春期男児達はコロっと逝ってしまうだろう。

「ミカに向かって、バーカ、って言ってやるといいよ」

「バカ!? 私バカじゃないもん!! 人より少しお出来が悪いだけだもん!!」

それをバカと言うんだよ。

「では……バーカ……?」

「わぁぁぁん!! ユイまで私をいじめるなんて酷過ぎるよぉぉぉ!!」

ミカはその小さい体と短い腕でユイに向かって行ったが、俺が可愛らしいツインテールを両方セットで掴んで制止する。

「痛い痛い痛い!! 離してよジュン!! 私はユイを道連れに、頭が良くてスタイルもいい美少女魔法使いとして異世界転生するんだぁぁぁ!!」

男として、女の子の髪を引っ張る行為は許されるものではないと思うが、こいつの場合は別だ。

こいつ自身もツインテールを武器にブンブン振り回しているからな。

これは単なる武装解除だ。

肉体的にもサッカーで鍛えている分、ひ弱そうなユイには脅威となり得るからな。

友人として俺が抑止力となってやらねば。

タカシにやらせたら絵ヅラ的に襲ってるみたいになりそうだし。

「何が異世界転生だよ馬鹿馬鹿しい。そんな都合のいい世界、存在する訳ねーだろ」

タカシの事を考えていたら、その彼がミカに物申してきた。

「あんなのは暇を持て余した中学生が書いた妄想日記みたいなものだ。なんなんだよ魔法とか異能力とかいうチート設定は。それに食べたり攻撃を受け続けたりして能力を得られるあれ、もはやテンプレ過ぎて笑えないわ。何もかもがギャグでしかないだろ」

これに関しては自分基い元俺の事を棚に上げる事は出来ない。

俺が使ってた技も大体は語感の情緒がいい英単語や漢字を並べたような感じだった。

英語で嵐の意味を持つ〈テンペスト〉と、その上位互換と思われる〈ダークテンペスト〉、

黒い影に電流を込めて放つ〈黒影放雷〉、

その黒い影のようなオーラを黒傘の斬撃に乗せて放つ〈黒影一閃〉。

……どれも中二病みたいなネーミングセンスだ。

それ以外の技名が分からなかった技は、中二病日本代表を自称するユヤが命名した。

少年Aの顔面に直撃したサッカーボールの一撃は〈サプライズ・メテオ〉、

ファントムの〈ダークテンペスト〉から教室の子供達を守った時に使ったカードは〈ブラックカード〉、

少年Aやファントムを硬直させて行動不能にした技は〈時獄〉、

そして鮮血剣による剣舞は〈ブラッドスラスト・ハイエンド〉と名付けられた。

ユヤは頭を捻りに捻って名付けをしたようで、一仕事終えたかのようなドヤ顔で俺に褒めて欲しそうにこちらを見ていた。

……恥ずかしい!! 恥ずかし過ぎるよ!! 何なんだその中二センスの塊みたいな技名は!!

それでも心の中にはそれをカッコいいと思ってしまう俺がいる訳で……。

でも現状で俺が使える技は、簡易版の黒傘での6連剣舞〈ハイエンドスラスト〉だけなんだよなぁ……。

だって、風とか雷とか操れる訳ないじゃん!!

〈ブラックカード〉と〈時獄〉、それに鮮血剣の事だって全く分からないし、技を再現しろってリディアには何度も言われたけれど、何らかの事情で元俺との感覚が同期された時にしか使えなかったから、結局の所、俺はただの喧嘩っ早いだけのガキなんだよな……。

タカシと全く同じような者だ。

「それは……分かるな。無駄に中二病っぽい必殺技名とかな」

「語彙力の無さを語感の響きとカッコよさだけで補おうという考え自体がナンセンスなんだよ。語呂合わせとか、アナグラムみたいな技名の方がずっと好きになれる」

「分かるわぁ~マジで分かるわぁ~」

自分が当事者なだけに凄く納得できてしまう。

「ところで淳、その傘は一体何なんだ? ただの傘じゃないだろ?」

「あぁ、この傘? これは魔……あっ――」

「ん? どした?」

マズイ、この黒傘の名前もユヤから命名された事を忘れてた。

もう何度も調べたが、この黒傘は俺以外の人間には誰にも扱えない専用武器らしい。

この特性を考慮して、あいつは〈魔剣アンブレラ〉と命名した。

シンプルな名前だが、俺は案外気に入っている。

何故か分からないが、前の俺も魔剣として使っていた気がするのだ。

さらに、鮮血剣についても名前が与えられた。

……これが酷い名前なのだ。

今の俺がその剣を扱えるようになったとしても、絶対にその名を言いたくはない。

その禁忌の名は、〈鮮血剣ブラッドヴァルキュリア〉。

映像中の元俺の伸びた髪のその立ち姿から、北欧神話に登場する、戦場で生きる者と死ぬ者を定めると言われた女性、ワルキューレになぞらえて付けたらしい。

だが、俺から言わせれば、鮮血とブラッドで意味が二重してしまっており、あまり好きではない。

だが、安易に改名するとこ、命名神の怒りを買い、一生その名前を変えられない呪いを掛けられてしまうかもしれない……。

なので甘んじて受け入れる事にしたのだが……。

「……ジュン君……どうしたの……?」

ユイが下から覗き込むようにして俺の視界に入ってきた。

角度的な要素もあるのだろうが、正面から見た時には分かり辛かった体のフォルムが良く見えた。

背は低いが、出る所はハッキリ出ている。

トランジスタグラマーと呼ぶにふさわしいスタイルだ。

断じてロリ巨乳なんて呼ばせない。

「あぁ……この剣なんだけど……」

「剣? お前もしかして中二病か?」

「し……親友の影響で……ちょっとね」

「んで? その剣の名前は?」

「……魔剣アンブレラです」

「ふっ……あははははははは!!」

案の定というか、タカシに笑われた。

「アンブレラって……そのままの傘じゃねーか!!」(笑)

「ジュン……会う度にいつもその傘持ってたけど……それ聞いちゃうと引くわ~」

ミカにも嫌われてしまった。

普通に傷ついた……。

「……良いと思いますよ……魔剣……カッコいいです……」

横で聞いていたユイが澄んで空気に解けそうな声で囁いた。

元より褒められるような事ではないのだが、この時、俺にとっての天使は降臨なされた。

「本当に!? 嘘じゃないよね!?」

「……はい……私も……持ってますから……」

そう言って、ユイは肩にかけたシルバーのエナメルバックから一本の折りたたみ傘を取り出した。

「……私の魔剣……じゃなかった……魔法の杖です……」

「なるほどステッキか。僧侶よりも魔法使い寄り……いや、賢者っぽいね」

「……私……魔法は使えませんよ……?」

「おーい、お二人さん? 二人だけで盛り上がらないで頂けます?」

「そうだぞ。頭良い同士、中二病談義で盛り上がらないでくれよ」

盛り上がる俺とユイを横目に、ミカとタカシが白い目をしていた。

ここは生暖かい目で見守って欲しかったのが本音だが――。

「タカシみたいなゴリラと一緒とか間が持たないよ! 何か話題を振ってくれないと――」

「んだとこらぁ!? だったらどっちがコミュ力高いか勝負してやろうじゃねぇか!!」

おいおい、女相手にムキになっても疲れるだけだぞ……。

「先に学校で友達100人作った方が勝ちね!! オッケー!!」

「違ぇよ。今度の土日にディザスターランドにデートしに行くんだ。そこで――」

「「はあぁぁぁぁ!?」」

ミカは勿論だが、俺も声を上げてしまった。

「何であんたと私がデートしなくちゃいけないのよ!! キモい!! キモ過ぎて引くわ!!」

「お前……入学だってまだなのに……同じクラスになれるかも分からないのに……いきなり口説くとか度強あるな……」

ミカは拒絶、俺は絶句の表情でタカシを見下した。

「口説いてねぇよこんなクソ生意気なバカ女!!」

「バカ女だぁぁぁ!? あ……あんた言ってはならない事を……!!」

お互いに睨み合う二人。

このままだと喧嘩になりそうだな……。

「とりあえずは分かったよ。それで、勝負の内容は?」

「それを先に聞けや……いいか、単純な話だ。それぞれデートプランを考えて、1日交代でその通りに実行するんだ。で、どっちのデートが楽しかったかを競うんだ」

「で、どうやってコミュ力を測るんだ?」

「土日は込んでるからな。当然アトラクションには待ち時間が出てくる。その待ち時間も込みで如何に楽しいデートを演出出来るかを最大のポイントにするんだ!!」

「なるほど……確かに理に適ってるな。学校に関係する勝負だと幾らでもズルできるし、知り合いに会う可能性が低いって意味では日程の差を抜きにしても公平なルールだな。だが費用はどうするんだ? 2日間だと相当掛かるんじゃ……」

「その点は安心していいぞ。特待生奨学金制度がある。入試上位30名には全員に5万円が

同額支給されるらしい。その給付日が今日だ」

「そういえば……すっかり忘れてたが、それもあったな」

「そう、この奨学金制度を利用して資金繰りをするんだ。こいつは俺がこの学校に求めている一番の要素でもあるんだ。積極的に利用する他はない」

「確かに5万あれば2日間は遊べるだろうけど……」

「嫌だよ!! めんどくさいもん!!」

女の本音とは怖いものだ。

事実をありのままに伝えてくる。

その感情に一片の虚偽は無く、あるのは純粋な拒絶心のみ。

……男って生き辛い生き物だな。

「……いいな……」

……何か横で羨ましそうな声が聞こえた気が……。

「……ランド……行きたいなぁ……」

ユイが連れて行って欲しそうな眼でこちらを見ている……。

えっ、何で俺の事見てるの? 

そこはタカシに頼むべき……ええっ!?

「ユイはランド好きなのか?」

「……ううん。行った事無いから……行ってみたくて……」

「そういえば、俺も行った事ないな……」

元俺の時に行ったかは分からないが。

退院してから、土曜日の朝10時からはお昼のエンタメバラエティでディザスターランドの特集コーナーを見るのが俺の日課となっていて、一度行ってみたいと思っていたんだ。

ユイはひたすら俺に何か言いた気な表情をしている。

それは、「連れていけ」という意思表示だった。

「……行くか?」

「……行く……!!」

何この可愛さ!?

何このあざとさ!?

何この圧倒的庇護欲!?

唯一無二の独特な雰囲気に男心を擽(くすぐ)る無意識な仕草の数々が合わさって、天然ものの守ってあげたくなる系女子なるものを完成させている!!

……俺はこの日、初めて人間としての、普通の恋をした。

「んじゃあ美華だけ置いて、俺達3人で行くか!!」

いやお前はお呼びじゃねぇんだわタカシ。

よくも人のデートの約束に水を差すような真似ができるなこの野郎!!

「3人とも30位以内だから……合わせて15万もの軍資金がある!! ホテルに泊まり掛けで遊び尽くせるぞ!! いや~楽しみだなぁ」(ドヤ顔)

タカシはわざとらしくミカの方を見ながらニヤニヤしている。

ってか当たり前のように俺とユイの支給金も一緒にやり繰りしようとしてるんですけど。

「あー分かった分かりました!! 私も行けばいいんでしょ!! 行きます、行きますよ!!」

ついにミカは観念したようで、一緒に行く事を了承した。

の、だが……。

「おお、美華も来るのか? 勿論自腹だよな?」

「ええぇぇぇ!?」

こいつ……性格悪いな……。

いや、演技だとは分かってるんだ、さっきからニヤニヤ顔のままだし。

けど、ミカが素直に勝負を受け入れなかったことに対する報復にしてはやり方が汚いというか、自身の成績的優位を利用したパワハラに近い何らかのハラスメントに見えてくる。

ミカは今にも泣きだしそうだった。

「んじゃあ美華の分は俺が出そうかな。俺とユイと一緒に遊びに行こう――っ!?」

ユイに横腹のYシャツを引っ張られた。

ミカに助け船を出しただけで他意はないのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。

そんなにも俺と2人きりでランドを回りたいというのか……?

「やった~!! ありがとうジュン!! 私、新作のポップコーン2種類と絶叫系制覇したいんだ~。後、ランドだけじゃなくてC(カオス)にも行きたい!!」

「……だめ……ジュンは……私と……」

両腕から抱き着いてくるミカとユイ。

なんか……いいな、青春って感じがして。

この手の事はSSハウスでも日常茶飯事だけど、青春っていうより性春っていう表現の方が正しい。

「おい……俺を無視しないでくれよ……」

ミカにパワハラしていた筈のタカシが寂しそうな目でこちらを見ている……。

最初に言い出したのはこいつだし、仲間にしない訳にもいかないな。

「分かったよ。ダブルデートという事で4人で行こう」

「えっ……私は誰と……?」

「勿論タカシとだよ。勝負するんでしょ? 嫌なら来るな」(ドヤ顔)

「えっ……」

彼女もまた、この不条理を受け入れる他なかった。

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