12-ふたたびの再会③
「これは……!?」
ルアさんはユウトのもう片手のパンも取り上げそれも目を凝らして何かを確かめると懐から銀色のナイフを取り出しパンに差し込む。
「フリームスコーズ、不浄を喰らえ、その身に」
俺の瞳がルアさんの手に握られたパンとナイフに魔力が集中するのを映し出すと、光沢に満ちたナイフの表面がみるみる変色していく。
「そそそそ、それっててたてても、ももももしかしてててて……」
ナイフの変色を見たリーエルさんが狼狽えてる中、厳しい表情をしたルアさんがリーエルさんに振り向く。
「リーエル、このパンを用意したのは……!?」
「え、えっと……救護班の人に食事の用意を頼んで……それから厨房で調理されてた衛兵用のものを分けてもらうって連絡が来て……それから……」
「急いで確認してきて下さい!」
「は、はいぃっ!!」
慌てふためき金髪を振り乱しながらリーエルさんは救護室を飛び出し城内へと駆け出して行く。その様子を部屋の真ん中でアイカとヒメカは呆気にとられた表情で見つめていた。
一方で俺が注視していたのはルアさんの手の中のナイフだ。パンから引き抜かれたその刃渡りは錆びついたように赤黒く染め上げられていた。
「ルアさん一体何が……そのナイフに何かしたみたいですが」
「ヒロトさん、これは魔術によって吸い出された毒の反応です。それもこれはとても強力な……」
「それって、つまり……俺たちのパンの中に毒が!?」
俺の言葉にルアさんが苦い表情で頷くと傍らで聞いていたアイカとヒメカも驚きの表情を浮かべる。
「えっ、それじゃあ……ユウくんがいま咥えてるのも!?」
ヒメカの声にルアさんははっとしてユウトの方に向き直る。俺もその行動に真意に気付いてユウトに駆け出す。
「ユウトさん、そのパン――!」
「こっちに渡すんだ、ユウト!!」
未だに口にパン咥えたまま立ち尽くすユウトにルアさんと俺が手を伸ばしてパンを掴み取ろうとすると、ユウトは笑みを崩さずにひらりとその手をかわす。
「ユウト、遊んでる場合じゃ……」
「ふごふごごっ!」
「――あっ、またパンを!」
俺の制止も聞かず、すれ違いざまにルアさんが持っていた二つのパンをも奪い取るユウト。いつものように遊び感覚なのか楽しそうに俺とルアさんの手から逃れながら真上にパンを吐き出し大口を開けてそのまま落下してくるパンを再び咥えて一気に頬張ってしまった。
「ああっ! 全部食べた!」
「ユウトさん、すぐに吐き出して下さい!」
俺たちはすぐにユウトに駆け寄ったもののユウトはあっという間にパンを食べきってゴクリと飲み込んでしまう。それには思わず俺もルアさんも動揺のあまり言葉を失ってしまった。
「ルアさん、パンに入っていた毒っていったい?」
「ナイフの汚染具合を見るに正規軍で使用されている毒ではありません。遥かにとても強力な――おそらくは国王直属の暗部が用いる劇薬『デスティア』でしょう。浸透性と即効性が特徴で、ほんの一滴でワイバーンを死に至らしめるほどの毒性を持ちます」
「あの大っきなワイバーンをやて……!?」
「ええ、数秒もかからずに内臓と気管をやられて……」
「う、うそ……!? そんなものをユウくんが……!?」
俺の質問に答えるルアさんの説明、それに驚愕するアイカに青ざめた表情を見せるヒメカ。
それほど強力な毒ならばもはや助かる道は無いであろう……普通に考えるならそうなのだが……。
「――けど、めっちゃ美味そうに食っとるやんけ」
「ユ、ユウくん、どこも苦しそうな感じしないね。」
その言葉通り、毒入りパンを平らげたユウトの表情は先ほどからうって変わらず笑顔のままで、ルアさんの手からくすねていたパンも残さず頬張っていた。
「実は先ほどから私もそれを感じていまして……」
「えっ? 毒は入っていたんですよね?」
「そのはずです。さっき調べたパンも全部食べられてしまいましたので確かに毒を摂取しているはずですが……」
ルアさんには何か思い当たるようで、両手の親指と人差し指で四角いフレームを作るように顔の正面に突き出し、ユウトの身体をその中に捉えるように構えた。
「エクレールコーズ、照らす火よその眼に」
ルアさんの構えた指の間と両目に魔力の流れが生じ、微弱な魔力の波がユウトに向かって流れていく。そして、何かを視た様子のルアさんは構えを解いて俺らの方に振り向く。
「やはり、どうやらユウトさんの体内の毒が浄化されているようです。おそらく、彼の持つ強大な【聖属性】によるものでしょう」
「属性……それって」
「あなたたちの肉体は『エレメント』と呼ばれる魔力の素のようなもので出来ています。ヒロトさんが【闇】、アイカさんが【天空】、ヒメカさんが【大地】、そして、ユウトさんは【聖】の属性を持っているようです。ユウトさんの肉体から放出される聖素の原因ともなっていて、今は抑えられていますが、それでも毒を浄化するには十分であったのでしょう」
「つまり……ユウトは何ともないわけですね?」
「え、ええ、とりあえずは大丈夫かと」
やや複雑そうながらもルアさんは頷き、俺たちはようやく安堵の声を漏らすことができた。
「もう、心配かけんなや〜〜!」
「毒って聞いたからどうなることかと……本当に良かった……」
安心した面持ちでユウトに駆け寄るアイカたち。今度はユウトは逃げずに満面の笑みで彼女たちの抱擁を受け止める。
「やれやれ……」
思えば、この世界にきてようやく俺たち宮田家がちゃんと顔を合わせて会うことが出来たような、そんな気がした。
「まさか、魔力の制御が……できてる?」
その一方で、ルアさんがユウトを見つめながら驚愕の表情を浮かべていたことに、その時は気づいていなかった。
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