4-アルトリアノ城にて②
俺が歩けるほどの魔力を回復した後、リーエルさんに連れられて俺たちは城の下部にある救護室がある建物に向かうことになった。
本当はユウトと同じように俺たちも城に通されるものだと思ったが、信用されていないのかなんなのか、この国の重役かなんかの人に色々あれこれ説教じみたことを言われ結局、城の中へ入れてもらえず、やむなくのことであった。
髭を立派に蓄え、ずれた髪型をしたそのじいさんにアイカはすぐにでも飛びかかって殴りたそうな顔をしていたが、アイカは必死に唇を噛み締めなんとかその場は耐え忍ぶことができた。
「ちくしょう、なんなんあのじいさん! ウチらのこと異世界人だの危険人物だの勝手抜かしおってからに!
「わたしたちは何も知らないって説明しても、全然わかってもらえなかったね……」
城の外縁に儲けられた石段を降りながら、アイカとヒメカの愚痴が互いに溢れる。
あの宰相らしき人物は俺たちのことを『魔族』だのなんなのと疑っていた。その言葉の真意こそ未知だが単語の察することは何となく分かった。
その前を歩くリーエルさんはちらりとこちらを向いてやや申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「昨日から大気の
きっとおそらく、その昨日のというのは俺たちが異世界に現れたのが原因なんだろう。ルアさんがあの樹海を訪れたのもたぶんそれが理由だ。
さっきから槍と剣を携えた幾人の衛兵たちが緊張した面持ちで俺達の後ろを一定の距離を保ちながら共に階段を降りているのをみても、俺たちはあまり歓迎されている感じてはないらしい。なにせ、樹海を消し去った張本人たちなのだから。
「リーエルさん、そのマナっていうのは空の上に流れているものですか?」
話を変えるように視点を空に向けると、上空に浮かぶ白い雲に重なるようにぼんやりと薄緑色をした煙のようなものが波うっているのが見えていた。それらは光の加減なのか、時折赤っぽくなったり黄色っぽくなったりしていて、一種のオーロラのようにも見えた。
「えっ、ヒロトくんマナが見えるのですか?」
「ええ、おそらくは。リーエルさんは見えないんですか?」
「普通の人間は肉眼では見えないですよ。専用の道具を通してじゃないといけません。ルアさんのような魔術師とかは例外ですが」
「へぇ、じゃあ、身体の内側を通っているのも見えないんですか?」
「えっ――も、もしかして
思わず出たリーエルさんの言葉に、側にいたアイカがピクリと反応して振り返る。
「――それって、ヒロ兄がバケモンみたいってことか?」
「え、あっ、す、すみません! そんなつもりじゃ……」
慌てて口元を抑えながら、その場に立ち止まって何度も頭を下げるリーエルさん。その時、リーエルさんの身体の中を流れるオドらしき魔力が不安定に流動しだしたのを視認した。きっと激しく動揺したのだろう、その流れは比較的穏やかであった先程とは打って変わって全身をのたうち回るようなものだった。
「おい、アイカ、あんまり人を驚かすなよ」
「別に、脅かしておらへんよ、ヒロ兄の気にしすぎや」
そう言ってアイカはリーエルさんを差し置いて一人スタスタと石段を降りていく。ヒメカもやや困った表情をしながらリーエルさんの方を一瞥してアイカを追いかけていく。
(あいつのオド……あれはどういう心境なんだろうな)
この世界に来てから見えるようになったソレであるから、心の中を見通すことなんてできはしない。
だが、俺たち四つ子のなかでも一番家族思いなあいつがここに至るまでに俺たち家族に降りかかった事を振り返れば、その胸中はなんとなく想像ができる。
「……やっぱり、なんとかしなくちゃだな、俺が」
「あ、あの……ヒロトくん……」
「大丈夫です、俺は気にしていませんから。それよりも、早いところ救護室に向かいましょう」
そうは言ったものの石段を降りきるのは時間がかかった。
なにせ階段でビルの四、五階はありそうな高さを、しかもこっちは子供の体躯で更に裸足ときた。白亜色をした石材のざらついた粗い感触が足裏を擦り、息を飲みながら次の一歩を踏み出す。
大人が使うためだからなのか一段一段が深いため、外壁に手を付きながら足元を踏み外さないように慎重に降りていると、随分と先に降りていたアイカが下方から「おーい、ヒロ兄はよー」と随分と呑気な声がしてくる。さっきまでゴンドラ酔いして吐いていたやつとは思えない。
それはそうと、そのアイカの粗相の際に誰かが被害を被っていたようだが、一体どうなったのだろう。俺たちがゴンドラから降りる前にその者は去って行ったみたいだが……そういえばあの《ずれた》髪の毛のじいさんがそれとなく名前を口にしていたような。
そうだ、確か――セルティネーア姫とか。そんな名前だったはずだ。
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