14-異世界の四つ子たち②
ヒロトが闇魔術を行使してゴブリンたちを翻弄しまくっていた頃、アイカもまた無数のゴブリンたちを相手に大立ち回りを繰り上げていた。
「おらぁっ! どうした、そんなんじゃウチは倒せへんぞ!」
「グキィッ!?」
アイカの振るった木の棒が一体のゴブリンの横っ腹を叩いて真横の木の方へ吹っ飛ばす。くすんだ肌の背中がまっすぐとたたずむ木にぶつかって枝葉を揺らし、そのままぐったりと地面に落ちていく。
「グアァッ!」
「シャアッ!」
間髪入れずにアイカの真後ろから飛び出した二体のゴブリンたちは木の槍と石斧を振りかざして攻撃を仕掛ける。
しかし、攻撃の当たる寸前で彼女の身体が空中に飛び上がりふわりと一回転した。
「――――ッ!?」
自分らの背後に回られたと思った瞬間、容赦のない高速の連続突きがゴブリン二体の身体に繰り出される。
「おまいらの動きなんてもう全部わかっとる」
その言葉のすべてを聞き取る間もなく、ゴブリン二体は白目を剝いて地に伏し、仕掛けてくるゴブリンがいなくなったのを察してアイカは「ふう」と一息をついた。
(ようやく身体の感覚にも慣れてきたやけど――まだ変な感じするなぁ)
この異世界に来てからというもの、アイカは己の身体能力の劇的な向上に戸惑いを見せていた。普段の彼女ならゴブリンたちの怒涛の連携と容赦ない攻撃になすすべもなくやられていただろうが、今はかすり傷一つ追うこともなく、決死の為に用意していたゴブリンたちの猛毒も無駄に終わっていた。
時折、体の感覚と思考のズレみたいなものを感じさせていたが、それも彼女本来の運動センスの良さで調整がほどんど済んでいる。
(あと、こいつもだいぶ役に立っとるなぁ)
そう思いながら、アイカはルアより貰った木の棒の、その黄土色に光る
(これのおかげであんま力をいれんでもゴブリンを倒せる……。ルアの姐さんはほんま凄いなぁ)
アイカ本人にはどういう原理なのかは分かっていないが、感覚的にはサスペンスドラマにはありがちなスタンガンなものと解釈している。相手の身体のどこに打っても効果はあるが、特に頭や胸の辺りなど急所に近いところほどより気絶にさせやすい。
これの活躍により、今しがた倒した三体の他にもアイカによってうちのめされた幾体ものゴブリンたちが周囲で大の字になってノビている。みんな特に大きな怪我もなく命には別状なさそうであった。
「……毎日を当たり前のように過ごしていた、か」
ふと、アイカはルアの語っていた言葉を噛みしめるように呟いた。
(家族を守るためなら何でもする気はあるけど、やっぱりできる事なら殺さない方がええよな……)
確かに、ゴブリンたちに非はないのかもしれない。自分たちの領域で好き勝手あばれられ、同族たちをも殺されたら、その怒りは計り知れないものだろう。
ただ、その点で言えばアイカたちも同様であった。
自分たちだって当たり前のように家族で楽しく遊んでいたら突然こうなってしまってのだ。いつの間にか訳のわからない所に飛ばされて、それで命を狙われるなんて洒落にならない。
もしも、アイカたちの誰かが傷つくようなことがあれば、それこそ誰か一人でも命を奪われるようなことがあるなら、アイカはゴブリンたちを許さず、怒りのままに一族皆殺しにはしていた。
うん……でもなぁ……。
アイカが自分の周りに転がる気絶したゴブリンたちを複雑な表情で見つめていると、目の前の木陰からまた新たなゴブリンの姿が現れる。
「まったく、次から次へとしつこいやっちゃなぁ」
自分の背後や木の上、はては遠くの方からも弓や魔術で自分の方を狙っているゴブリンたちをアイカはもううんざりそうにため息をついて、もうひと仕事頑張ろうとうんと背伸びをした――その時だった。
「ん、なんや?」
「ギッ……?」
「ンア?」
森の中から聞こえてくる妙な音と地面から伝わる大きな振動。その異変に、アイカだけではなくゴブリンたちもまた困惑した様子で辺りをうかがった。
(これは……地震? それともまた…………!)
アイカの脳裏に蘇ったのは異世界に訪れるきっかけになったあの山体崩壊の記憶。一瞬のこととはいえ、全身を押し潰したあの感覚にアイカは思わず身をすくめた。
い、いや……冷静になれ……なるんや! 今は雨なんか降っとらんし、そもそもここは山の中じゃなくて森の中や……!
アイカは必死に自分を見失わないようにして辺りを警戒していると、夜闇が覆う森の奥の方から何やら木の幹が潰れるような乾いた音が鳴り響き、それがどんどん大きくなって彼女の方に近付いてくるのを感じた。
「――――ッ、何か来る!?」
「グギッ!?」
アイカとゴブリンたちがそちらに気付いた刹那、目の前の木々が突然轟音を上げて粉砕した。
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