ぼっちを回避した男子高校生の話
とりあえず、入学4日目にして俺は1人だけ話せる友達を見つけることができた。逆に言うとその日までは事務連絡程度のことしか話せなかったということである。ずっと例の“能力”に頼っていたせいで、どのような会話をすればいいのかが分からなかったことが一番のネックになっていた。そしてその記念すべき第一号の名前は、井浦 美鶴(いうら みつる)
一見名前は男子生徒が女子生徒かわからない名前だがれっきとした男子生徒である。なぜ友達になれたかと言うと好きなバンドが一緒だったからだ。チープな展開すぎて自分でも少し引いていたがこれが現実らしい。まあ、そんなものか、と受け入れたことにする。通学鞄にLIVEのキーホルダーを付けていった朝、学校に着いて机に鞄を置くや否や、井浦がすごい形相、例えるとするなら隠してあった赤点ギリギリのテストを見つけた母親のような顔つきでやってきた。そして矢継ぎ早に問いかけてくる。
「好きなアルバムは?」
「え、ああ、彗星の落ちなかった春」
「3作目のやつだな?」
「うん」
「名前は?」
「七瀬 爽」
「よろしく、七瀬」
「よ、よろしく」
一問一答形式、超スピード型面接(仮)の末、どうやら友達になったらしい。そこからは一緒に教室移動したり弁当を食べたりする仲になった。少し変わった一面も見えるが、話は面白いしそれなりに気は合うしでいい奴だと思う。最も、向こうは惰性で一緒にいるのかもしれないが。ちなみに3歳上の姉が東京で一人暮らしをしているらしい。
「七瀬、部活の届け出した?」
「唐突だな、出してないけど、なんで?」
唐突に話を変えてくるのも彼の特徴である。さっきまではその例のバンド、名前は"回想プラネット"(ちなみにこのバンドのファンのことはカイソウに因んで"モズク"と呼ばれているが、そんなこと今はどうでも良い)のボーカルの魅力を語っていた。高音の出し方が綺麗だの、ライブで暴走するベースに毎回足踏まれるボーカルとのやり合いが可愛いだの。
「いや、今日の昼休みにでも出しに行こうかと思ってさ」
「ちなみにどこの部活?」
「ん、バレーボール、七瀬はもう決めたのか?」
ここで自己紹介の意味のなさに身をもって気づかされる。かく言う俺もこいつのことは全く覚えていなかったのだが。
「多分、美術かな」
「んー、見えない」
見えないとは失礼な。
「じゃあ、何に見えるんだよ」
「惰性でサッカー部にいる補欠部員、俺は?」
即答された。絶妙に傷つくラインを攻めてくるのがうまいらしい。
「…バレーかバスケ」
身長が高くスラっとしている彼はどこからどう見てもバレー部かバスケ部にしか見えないし、文句のつけようもない。まさにマリアージュである。
「まあ俺が美術の方が似合わないよな、じゃあ、出してくるわ」
今日の放課後こそ美術部に見学に行こう、確か二週間以内に入部届を出さないといけなかったはずだから。そう決心しつつ、卵焼きを口に運ぶ。
あれ、美術室ってどこにあるんだろう…
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