男子高校生奮闘記(仮)
南山猫
一見青春ヘイトな男子高校生の話
あそこで音楽聴いてる子は5歳から10歳までピアノを習ってて、あそこで本読んでる子は小学校まではグレてて…
ああ、何やってんだか俺は。ただいまの時刻は8時15分、朝礼まではあと5分。今日は入学式の次の日、でろくに友達も作れていない俺は自分の席について人間観察、正確に言えばその人の過去を観察していた。幸か不幸か俺は人の過去が意識したら読み取ることができる。7歳の頃まで全人類みんなそうだと思って人に接していたせいでろくに友達は出来なかった。当たり前だ。いきなり初対面のやつに
「君、二年前のピアノの発表会で舞台で転んだ子だね!」
なんて言われても気味が悪い。
少し古びた音のチャイムが鳴る。
「ほら、席につけ。出席とるぞ」
このクラスの担任、相田が教室に入ってくる。挨拶飛ばしていきなり出席って…急すぎないか。ちなみに俺の名字は七瀬だからそんなに早く気構える必要はない。高校生になっても出席を取られるのは苦手だ。あの返事の時に声が裏返ったら、声が出なかったら…なんて考えると怖くなってくる。四回に一回くらいはひしゃげた声になってしまうのも悩みだ。
「爽、七瀬爽、いないのか」
「は、はい。います。」
周りから漏れる失笑。なんで今日に限って下の名前で呼んでいるのか、甚だ不明だ。多分新学期の先生の配慮という名のお節介、みんなで早く名前を覚えようというやつだろう。ちなみに俺は自分の名前が好きではない。嫌いというわけではないが、自分の名前が自分からはみ出している気がして仕方がない。こんな凡庸少年に爽やかさなんて微塵もないのに。
「今日の1限はホームルームなのでまずは自己紹介をしてもらおうと思う。じゃあ、四隅ジャンケンして」
ああ、高校生になってもまだその制度あるんだ。負けたのは左端の1番後ろ。一言一句落とさないように聞く。なぜならここで空気を読んで無難な自己紹介にすることが重要だからだ。いかに自己紹介で失態をさらさないか。ここに学生生活のすべてがかかっていると言っても過言ではなかろう。
「渡瀬 翔(わたらせ かける)です。かけるって呼んでください。趣味はギターで今年の目標は数学克服です。よろしくお願いします。」
銀色のネックレスが首筋で輝いている。頑張って高校デビューした感、これは真似できない。この渡瀬君の過去、見たら面白いんだろうな、と思いつつ見ないことにした。今年の目標は出来る限り、できる限り"能力"を使わず人とコミュニケーションを取ること、とつい8分前に決めた。正確に言うと昨日の夜から考えてはいた、が、一晩寝て忘れた結果さっき使ってしまったのでスタート地点をずらした。ああ、せこい技だ。でも実行する一年間と比べたらほんの誤差のようなものである。今までは前哨戦で、ここからが本番だ、なんて格好つけておくことで、自分の中で何とか体裁を保つ。中二病と三年目のお付き合いをはじめてしまいそうだ。
そもそも、なぜ高校に入って“能力”を封印しようと思ったかというと、理由は単純でなにか後ろめたさを感じたからだ。他人の過去を勝手にのぞくことが不法侵入のように思えてしまう。なぜこんなにも平凡な俺に力が備わっているのか。もっと適任者がいただろ神様!!!!
そんなことを考えているうちにもう5人が自己紹介を終えていた。
「真瀬 雛子(ませ ひなこ)です。今年は英検2級をとることが目標です。あと、美術部に入りたいと思っています。よろしくお願いします。」
長い黒髪を後ろに1つでまとめている美術部志望、と。入りたい部活を言うのも1つの手だなと考えつつ自己紹介をまとめていく。
「平戸 奏(ひらと かなで)です。よろしくお願いしまs…」
肩につくかつかないかどうかの綺麗な黒髪を垂らして真っ赤な顔をして喋っていた。昔の自分を見ているようで、少し辛かった。
そして非情なことに、もう俺の番だ。
「七瀬 爽(ななせ そう)です。部活はりk、美術部を検討しています。1年間よろしくお願いします。」
間一髪のところで回避。今までの癖で陸上部と言いかけていた。本音を言うと切実に陸上部に入りたい、走りたい、思い切り胸からゴールを切りたいと思う、が足に爆弾を抱えている今、自分が今までの様に走れないことくらい重々承知していた。一方の美術はただの趣味程度である。まあ上手い方だとは思うがどうなんだろう。
「黒川 隼人(くろかわ はやと)です。サッカー部志望です。授業中寝てたら起こしてください。よろしくお願いします」
人懐っこそうな笑顔、なんかこういう人がクラスの人気者に台頭するんだろうな、と漠然と感じてしまう。クラスの人気者などなりたくもないとは思うが。
毎年自己紹介を聞いていて不思議に思うことがある。
「あ、この人について行けばカースト上位なれるんじゃね」
「あの人に逆らうとやばそうだな」
「この人クラスのリーダー格なりそうだ」
なぜ、第一印象でこんなに判断してしまうのか。そんな自分に少し嫌気が差す。
こんなことを悶々と考えているうちに自己紹介は終わっていた。え、せっかくだしクラスメイト全員分コメントを考えろって?俺はどこかの誰かのせいで面倒な性格である、よって無理だ。
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