いつもおなじ曜日の、おなじ時間。ラジオのパーソナリティのように僕は図書館へ行く。

 図書館員は普通の会社員と違って、毎週曜日でシフトが決まっているわけではないらしい。先々週いたはずの△はどこにも見当たらない。事務室で作業中ということもなさそう。なんでわかるんだというと、別に僕が不埒なストーカー行為を働いたわけではない。なぜかこの中央図書館、事務室内がガラス越しに丸見えなのだ。食べ物屋が調理しているところを客に見せるのは分かるが、地味な内部仕事を公開してどうするんだ。設計した人は、他者の視線に晒されて快感を得るタイプなのか? 

事務室内にいたのは、ほとんどが女性だが、△はいない。会話までは聞こえないが、人相は判別できる。

 なんでだよ。

 とはいえ貸出期限は今日まで。館長らしきおっさんのいるカウンターで、本を返却した。公共図書館で毎日大勢の市民と接している△が、一ヶ月も前に会った僕のことを覚えているはずがない。たとえ会っても、いらつくだけだ。 

『あっ、○○さん』

『……ども』

『読みましたか?どうですか?おもしろかったでしょう。いえ、面白いかよくわからなかったでしょう?でもそこがいいんです。おもしろおかしいとか背筋が凍るとか、笑って泣けるとかだけが小説じゃないと思うんです。それで……っ』

『……』

『あ、ごめんなさい私ったら……すみません。好きな本のことになると我を忘れてしまって……仕事に戻りますね』

 などと僕が妄想しているわけがない。……いやしてるし。小説読みとは恐ろしい。無意識のうちに脳内で他人と会話をはじめる。大体最初からおかしい。△が僕の名前を知っているわけない。知ってたら怖い。週に一度、ただ来て本を借りて返すだけで滞在時間五分未満の人間の名前を司書が覚えてたらホラー。利用者の個人情報把握しすぎで問題になるレベル。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る