されど、滑り止め
私立東野高校は、都内でも屈指のマンモス校であり、全校生徒の人数は2000人を超える。コースごとにカリキュラムが異なり、選抜コース、Bコース、Eコース、そしてSコースがある。
まず選抜コースは、まあお察しの通り、頭のいい人達のコース。2クラスしかない。そう。東野高校の頭脳は学年に2クラスずつしかない。
私が入学したBコースは、Basicの頭文字から取った、まあ真ん中のコース。バカもいるし、選抜と同等レベルの頭の良さの人もいる。私は…人相的にも学力的にもBコース中のBコースというところか…。
EコースはEasyの頭文字から取った、所謂…馬鹿の受け皿コース。学力はそれはもう低いが、テストのレベルも低いし、人間的育成に力を入れてる?らしいので、専門学校やAO入試などでの進学実績は安定しているらしい。
SコースはSportsの頭文字のS。東野高校は昔から甲子園常連校で、全国からかき集めた野球児達専用のコースである。選抜からEコースまでの私たち一般生徒とはカリキュラムが全く異なり、寮生活をしている生徒もいるらしい。
学校はモダンな雰囲気でビルのようにそびえ立つ8階建ての本館、昔ながらの教室が立ち並ぶ歴史を感じる5階建ての別館、音楽室や美術室などの特別教室が集合している円形校舎の丸館、そして体育館・プール・多目的ホールが併用されてる館に分かれており、本館が中心になって、渡り廊下を通じて行き来できるように作られている。
グラウンドはテニスコート4面分くらいと、人数の割にとても狭く、体育祭は外部の陸上競技場を借りて行うらしい。
私はこの複雑に入り組んだ東野高校の仕組を知らず、綺麗な本館とせいぜい多目的ホールしか学校見学で見てこなかった為、丸館だとか別館の存在なんて知らなかった。
入学して早々、私は現実を目の当たりにした。私達Bコースが案内されたのは別館と呼ばれる本館のモダンでカッコイイ雰囲気とはかけ離れた、昭和の田舎学校感漂う質素な教室が立ち並ぶ、お世辞にも綺麗とは言えない校舎だった。
しかも5階。階段キツすぎる。本館にはエレベーターが4台あるが、このボロ校舎に勿論、そんな文明の利器はついていない。
Bコースは5階と4階、3階と2階はEコースが使用している。学力的に上ということを誇示したいのか何なのか、ヒエラルキーか何かを示唆したいのか知らんが、上にいるものこそこういう場合楽ができるものじゃないのか?とまだ見ぬEコースの生徒立ちを無条件に恨んでしまった。
本館は2、3年生と選抜コースの方々、そしてSコースの野球児達が占領している。勿論職員室も本館にある。
2、3年生はともかく、選抜とSコースの1年くらい別館でいいだろと思ってしまう私は心が狭いだろうか?入学早々こうも格差というものが何か体感できるのはある意味凄い事なのかもしれない。
今まで義務教育を受けてきて、どんな人も平等だとか、同じ人同士だから助け合っていこうとか、そういう道徳を刷り込まれて、クラスも学力が偏らないように計算されて人が分配されて、クラスとクラスの間、人と人との間に『壁』を作らないよう、大人が工夫したり、それを受けた私たちもそれがきっと正しいことだと理解してきた。しかしそんな今までの価値観が一気に崩れ落ちた。
この別館という隔離空間。同い年である選抜コースやSコースは2、3年生と同じ校舎。
これが現実なのだ。
努力した結果ちゃんと実力を着実につけれる凄い人達というのは、そうやって特別…いや当たり前の場所、相応の場所というのが用意されている。
別館に隔離されたとか、こんな場所聞いてない詐欺だとかそういう風に感じている私達は、それ相応だと判断されてそこに分配されている。今私は別館の最上階にいるが、この館の2階にいる人達はどうだったか?
「下の方で良かった〜ラッキー!ww」
「てか底辺ってこと?マジウケんだけどw」
「まあ事実だし仕方なくね?www」
「たしかにwwww」
…こうなっては負けだと自分に言い聞かせた。
さて、まあまあこの高校がどういう仕組みとかそういう難しい問題なんかどうでもいい。忘れてやろう。
そもそも私はJKライフ満喫のために高校に来たのだ。勉強はそこそこ出来るし、まだそんなこと考えるには早い。1ヶ月前に受験勉強から解放されたばかりなのだ、少しくらい羽目を外しておかないと後々後悔するに決まっている。
まずは友達づくりからはじめよう。入学式とか人多すぎて何も出来なかったし、すぐ帰らされたからなぁ…
しかし、何となく周りを見渡してみると、陽キャっぽい女子たちが教室の後ろに集まってギャーギャー騒いでいるし、他の人たちは私と同じように周りを伺うようにキョロキョロしていたり、スマホに目を落としている。
後ろにいる人たちはSNSで知り合ったのだろうか?このご時世入学前に知り合っておくのは珍しくもない事だが、私は春休みに中学時代の友達と遊ぶこと以外考えていなかったので盲点であった。もし、裏で色んなグループが成立していたらどうしよう…。
そんなことを考えているうちに始業のチャイムが鳴ってしまった。
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