第5章 2013年 その4 春 初夏 夏

   「春の花咲く」


ときわはぜ 今年も保護の対象にて同じ角度に朝日に向かふ

                      ==目につかぬほど小さな薄紫


梨花りか咲きて佳き言の葉に綴りたき憧れ満ち来 白絹の艶


ぼさぼさの柔き花弁に頬紅をほのかつけたるごと 春紫菀


図鑑の絵そのままに咲く宝鐸草ほうちゃくそう 二つ花房庭に下向く


隣り家に最後のひとつもちりぢりに散る八重椿 ほの赤にして


はや三つ日むざむざ過ぎるわが皐月 シロツメクサの何ぞ香れる




   「家族の像」


山羊さんの届くこと無きお手紙を 唄ふ子の瞳はいつも濡れにき

                         ==白ヤギさんたち


子の妻を娘と思ふ吾が心 それも疎まれひとり死ぬらむ


紫陽花のピンクとりどり呉れし嫁 緑の葉陰のその手美し ==母の日


京都の麺「天下一品」に狎れたるを 「東京ラーメン」駅前も美味


五井駅の「東京ラーメン」しやつきりと をみなの作る薄口スープ


歌一つそこそこできて さあご飯作ろうと立つ善き日の厨


かゆみには抗ヒスタミン 炎症に副腎なんとやら貰ひにやつく

                         ==皮膚過敏発症




   「姫松葉牡丹再生」


一本の芽立ちも惜しみ残す庭に やがて緑の絨毯敷かる


律儀なる花と詠まむに名を知らず 報はれざりて牡丹色なり


遂に五月枯れたるままの茎の先赤らみ初めぬ 抜かざりて良し


きつと出る 無闇に確信してをりし 緑の針の命あらはる


疎遠なりし友に縁あり教へらる 去年こぞは知らざりこの草の名は

                         ==40年ぶりに


堪忍の姫マツバボタン その策を我は知るなり秘かに詠ふ




   「麗しの皐月」


わが庭の小さきものたち青冴えてことに露草 黄の色誇る


虫も飛ぶけふ聖五月 白花をかかげて十薬ナースのごとし ==どくだみ


夏も冬も負けず静かに伸びし葉を くちなしなるかと思ひて愚か


筍の爆発力を身にもらひ ふと不幸せ忘れたるかも


これからは笑ひて生きむ柿若葉 己が光の中冴え渡る


うつとりと空を映せる水張田みはりだもだす深さを走る小波

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