第5章 2013年 その3 上総国分尼寺

   「机にる」


にび色の空はさながら冬の底 望む気持も失せて日の過ぐ


絵描きらの腕も及ばじ色の海 デジタル画面に溢るる具象


パソコンの画面に虹を捉ふるは視覚細胞 数字を見るのか


佐太郎の抒情の歌をごくごくと呑みこむ いつか芽吹き青かれ




   「応需短歌」


梅待月上弦八日目 冴え冴えと青き夜空の中天の路


小さきもの集めてひとの喜びの木切れや小石 宝石 お札


動物の眠りに落ちてしばし不動 ガラスのまなこ開け動き出す


ひとつ鴨 水脈みおどこまでも乱されぬ 江津湖に春は名のみなるらし


恋に落ち活性化せる脳のさま すべてMRIにて見通されている




   「上総国分尼寺跡地かずさこくぶんにじあとち


上総なる国分尼寺の回廊を桜吹雪とともに歩めり


かそけくも耳に鮮やか鈴揺れて 東大寺にも澄み渡らるむ

               ==東大寺の灯籠の4分の1というもの


黄金の鈴を連ねて春嵐 吹けば光りて灯籠の楽


上総なる国分寺の塔ベンガラの七重ななえ賢し 黄砂まぼろし


民の幸を仏に拠りて恃みたる聖武天皇 千二百年前


恃みしは仏の加護なり 黄砂にて運ばれたるや唐土の思想


天平の国分寺の塔 民のためといくつ建てられ戦に焼けし




   「庶民の暮らし」


猫まんま醤油かつぶし 平成の御代にふえゆく下層の暮らし


どうしてもエスカレーターに乗れざれし天然パーマの祖母は雲居に


英国にEU可否の論議ありて 口に指当てしんと聴く人ら


笑ひ過ぎ涙こぼれてなほ可笑し いとけなきかな孫にも起こる


二歳児の眠気と食ひ気照れ笑ひ カレーライスに顔を突つ込み




   「過去よりの声」


不意に濃く懐かしさ湧きて 汝が気配なれば暦に由縁を探る


十年を遥か過ぎきて干涸びし世の浮き草の葉裏のその痕


ひたすらに澄みし声なほ耳にある 寡黙なる子がふいに歌ひて


春の日に届きたる文はつこひの人の婚 汝がもとい喪はる==推測だが

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