第5章 2013年 その1 ミントグリーン

   「失望の年?」


年末に初夢宝くじ少し 買ひしばかりに失望の年


ただ白き紙美しくくくられて今年も荒野広がる頁


ふたつほどがつがり抱きローソンへ 晴れ着のはたち敏捷のさま


オリオンをキリリと飾る冬空を覗けばまろし 青き夜の底


北海に泳ぎてありし紅鮭の冷凍パックなり 一瞬にして


手すさびに薬指にてアイフォンの魔法の画面するりとめく




   「あの人この人」


同い歳の師の歌書 隙のあらざりてこれはいかんと身仕舞ひ正す


戯れに夫の我がため買ひくれし 文字一つ無き砂漠の手帖


メル友も寝つきたるらし 二十五時ブログもサイトも口を閉ざしぬ


北風の何と言ふ子か 角々でぎしぎし遊ぶ古家をめぐり




   「運の尽き」


運尽きて糧を得る術 断たるれば節約すれども貧へとすべる


災ひのきにいぶされなしつつ生命は失ふ かがよふ力


わたくしめ独語が専門 無口にて独り言すらあらぬ独活うどにて


スマートさ軽さ明るさ重さなく 独活と言はるる能なき生まれ


そもそもが軽き我なれ せめてもの洒脱しゃだつにたたく軽口もなし




   「ミントグリーン」


昔子に買ひしポトスの葉先から雫あふれて命 黄緑


わが与ふ寒の水にも喜びてミントグリーンのポトス長らふ


夫とわれ心無きかに罵りて ミントグリーンのポトスの困惑




   「小学生」


朝日子に大きプリズム差し出せば へやの宇宙に虹を浮かせり


平行四辺形の面積 底辺に高さをかけてマジックのごとし


工作の木の本立てに丸窓を 糸鋸とやらに母と開けてし


絞り染めの糸を解けば紅の中 瞳開きて無辜むこの白花


道路より雪の階段ポストまでいくつか降りて 昔津軽に

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