第4章 2012年 その13 東京湾アクアライン

   「東京湾アクアライン」


国道をバスは飛ぶがに 白富士の右に左に遠く佇ちつつ


無謀にも東京湾を跨ぐ橋 風に煽られバスの耐へゆく


海をみて可愛い青い色なりと 呟く己が心いぶかし


南風はえにあれど未だ冷たし窓外に 鴎の一羽飛びて進まず


底浅き東京湾に小舟止め 潮の引く間を人ら働く


事故の報 ヘリコプターは蚊のごとく淡く紅さす富士を横切る


幾たびも通ひたりしに 思はざる富士は常にぞ我に添ひたる


樹海越え 懐深く倭の国を見渡しやまぬ峰と思ひぬ




   「アクアライン海底トンネル」


虎のごとうねりてバスは海底に 地震を怖るる毛穴の縮む


渋滞のトンネルをゆく車の列 日本列島に身を委ね居て


海底に閉ぢ込めらるる定めかと迷妄勝るに ふと日の中に


川崎の工場の煙盛んなるを吉とするべし 富士は消えたり




   「都心の眺め」


新緑の梢の高さに走るバス 小さき人影窓といふ窓に


ビル群ははるひに光り 三角のいちやうの芽吹き幾何学の街


こんもりと緑濃くする神田川 ボートハウスのペンキや床し


潮満ちて 風の絵筆は白線を無数に描き川の溢れつ


暮らす窓 働ける窓 走る灯の反照わづかに神田川淀む


都会とは他所行きの顔 卑小なるねぐらにかわすその美と速さ




    「宵の新宿都心」


長月の十三夜ころ 絵巻物めきて光の塔の群れ立つ


星見えぬまで摩天楼 玲瓏と光の元をいづこより得る


あざらけき都心のビルの夢見時 滅びの前のマンハッタンの

 



   「帰路」


京葉道東京ベイを巡りゆき帰路は羽田へ 歌会かかいの旅路


新旧のタワーの漸次ぜんじ立つを見る 湾の埋め立て矩形連なる


まどろみて東京遠望 二つながらタワー並べて木更津きさらずは暮る


名月を待つ七時すぎ バス内を映す鏡となれる窓かな


山の影落ちる十六号線 日の暮れて眩しくスーパー全容示す


文明の器とシステムに運ばれて 吾は呆然と対価を払ふ


五井駅に更級日記の頃はもや 文月四日の望の月の出


月の出をネオンの中に見つけたる眼ほどに携帯写してくれず


宵闇を金色燦然昇りゆく 月速きこそわれらが自転

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