第4章 2012年 その12 晩秋の樹々

   「青き朝顔」


珍しくなにか嬉しきことのある それが嬉しき秋の朝顔


五つ目の「大洋の青」小さく咲く 冬中育ち生垣となれ ==oceanblue


天の青ただ爽やかと思ふうち悲しうなりぬ 秋風の中 ==heavenlyblue


名にし負ふ天上の青 霜月の寂しき色と横より眺む


冬立つも 窓の向かふに淡青のヘヴンリィブルー咲けばたのもし ==立冬


百舌の声降る庭のすみ 点々とスノーポールの芽立ちさみどり


夏蒔きし何かの花の細き葉が ひそかに並ぶ立冬の庭




   「晩秋の樹々」


混植の生垣に春香りたる卯の花の実は この赤か黒か


ほの黒きネズミモチの実 花札に見たる時より風情好まし


槙の葉に丸き深紅のふと見えて つがいのごとき緑の玉つく


腕太きさくらもみぢの一本が道に火灯す やるき無さげに


駅前のさらしな通り 閑散といちやうの黄にもなほ緑あり


時雨きて 光る車道にカラカラと桜紅葉の落ちて色冴ゆ




   「喪ったもの」


失ひし二千四年の歌を探す 電子の海に浮きつ沈みつ


悲哀よりこぼれたる歌またすくひ 紐に結はへて指の冷たし


いかばかり砕けたるかと旧友のことばますぐに 津波のごとし

                      ==長男を知る旧友


玄関に毛玉のやうなる仔猫ゐて その日の嫌悪すべて許しつ

                       ==次男のツィート


ヤブ医者に中耳炎の子を強ひし我 愚かなりしを遠く謝る ==次男のこと




   「落としもの」


潮流のまなかの島よ 災ひのひとつひとつに路の尽きゆく


遠流おんるにて果てたる高貴の才覚の遺せし野望 定家へつなぐ


平安の絹の衣をかづきつつ 望月ひとり忍びて雲間 ==月を擬人化


「雨は雪に変わる」切なきメロディの呼び覚ます わがイヴのお話




   「拾いもの」


老年の夢みる未来 まづ古家買ひて友垣媼ら棲まむ


「新宿の母」とふ人か吾を見付け良き気あるとて 嘘とも思へず


何を待ち時の流れをわれの生く 本もニュースも過ぎ去る翌日


不可解のこの世のさまざま耐へきしは 今ぞ涅槃に安らはむがため


重き鉄は地球の芯にて磁場の元 なれど呼吸は錆をもたらす


白々と砂粒に似る星たちとクオークとの差異 ゼロいくつつく

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