第4章 2012年 その11 秋の朝顔

   「秋の朝顔」


咲かぬまま茂る朝顔みどりなす葉の投ぐる影 白秋の頃


諦めて切り置きし蔓の初花の 色忘れまじヘヴンリイブルー ==heavenlyblue


露草と不思議に同色 はつ花を十月咲かす朝顔のあり


十月の 赤に黄の斑の蕾立つ祖父のカンナは本気に咲くらし


酷暑過ぎ息吹き返すばらの葉に 虫のたかりてぱらぱらと落つ


木犀の風巻きおこる線路沿ひ 泡立草の花穂は尖りて




   「涼音」


左手も弦にふれつつ琴爪を構える今し ひと声を待つ

                ==「ヨオイ」のひと声が合図


ひんやりと風のふとあり 草引けば耳の後ろに百舌鳥の高らか


小童こわらわの声やはやはと澄み透る 公園に請ふ慈悲ぞあれかし


風と雨の拭ひて秋空さうさうと濯ぐがごとし この乱し世を ==台風のあと


庭に出て雨戸ひくときガラス戸に映り込む月 間近に眺む


くきやかに槌音冴えて雲もなし 新築の家冬へと急ぐ




   「不祥事」


日本発オセロゲームの白黒のつかねば情死 よよと泣く首


海底のトンネルなれば仰ぎみる ありうるなれどまさかと打ち消す


沖縄に後生の花と名付けられ 現世の庭に血の色の美し

                      ==ハイビスカスの異称


負の遺産そのままにして政争の泥沼どしや降り 猫バスも来ず

 

知らぬ犬よ叫び絶え果て 爪痕はドアの表に抉られ残る


哀れ友よ女ひとりに与へらるる宿世すくせの行方 受け止めかねつ 




   「追憶サイト」


限りなく思へしメモリわづかなり 追憶サイトの写真取りやむ


秋の夕 薄雲に紅刷かれゐて優しき指の 存在ひとぞあるべし


函館のまちの輝き独り観てかへりし青年 十三年前


二千八年挽歌以外をおろおろと歌ひ始めぬ わが老いづきて


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