第4章 2012年 その10  秋彼岸

   「三世代」


二歳児もエノコログサの穂の柔さ感じたるらし ふたつ引き抜く


オリンピック見たるゆうくんかけつこ好き 腕を泳がしどこでも全速


「ゆうくんは男の子だから」たどたどとしかつめらしく 二歳児の口


「お袋」というでもなくて唐突にあんたと呼びくる末つ子 二十歳


二年生の通知表に書かれたる「無口無関心争ひ好まず」 如何なる我か




   「秋彼岸に思い出す」


盂蘭盆会 みな仏ゆえ恨みなく集へる笑顔火影まはりに


思ひ出づる 少女雑誌の感傷のあしたのはまべ黄のフリージア


朝顔の凋むはかなさ この赤の色を限りと種を残さず


両の手の幸水梨に噛み付けば おもおも張れる甘露の袋


去年遇ひし水引草の咲きたるは十月なりしか 花茎はべに




   「違和感」


梅雨に咲く小さき白花 アゲハ来てほほづき大の緑の球生る

                  ==のちに金柑とわかる


ベランダの花は外向き 天窓の真下に咲かば空を見上ぐや


半分の空占むる赤 予兆めく巨大 鉄床かなとこせみくじら雲


泣き暮らし涙も涸るるこの日頃 ドライマウスにドライアイとは




   「夏の名残り」


向日葵の幹に足添へ へし折れば海綿のごと芯は濡れゐて


鯖雲のあまねくだんだら 仰ぐ目に空白くして雲青く見ゆ


律儀さを歌に詠むにも名の無くば報はれざりて 牡丹色なり

            ==ミニマツバボタンとのちにわかる


露草も抜きて夜寒の時雨月 あした晴るれば横様に咲く


戯れにひねる俳句に季重きがさねといふ壁ありて うたの自由や

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