第4章 2012年 その9 夕涼

   「不二なる旧盆」


よその人をときに母より頼りたる 君の心をお盆に知らさる


忌日にてひとりか不二ふにか デニーズのざはつきの中桃ゼリー食む  

          ==不二 二つに見えるが実際はひとつであること


竹取の媼は今も宝子と不二なる日々を笑ふて詠ふ


高きより撃つ熱風に乗り たまは身に近々と屋内やうち吹き抜く


悔ゆるともすすげぬ罪の重さゆえ浄らなる人 もしも崇む


後ろよりひしと抱きつき離れざる大き父の背 愛深かりし




   「子ども」


汽車で行く昭和三十年青森へ 鹿児島からは二泊の煤なる


「ガタンゴトン」電車をそう呼ぶ二歳児の世界は素敵に充ちてゐる


幼らに「試して」ご覧とわが言ふは 失敗織り込みはげまさむとて


母の尾にじやれる仔猫は叱られて ほどなく捨て子となるを知らざる




   「八月末」


喉元の違和感憂さのゆえならず けふ診断はドライマウスと


予報では三十一度 まだましとバスで涼みて銀行その他


雨雲の不意打ち白き雨脚に道の黒々濡れて また晴れ


天津風 秋立つとやや思はせて驟雨の一閃こころ横切る


八月の終りの満月まぢかにて 涼風こおろぎ空腹の我




   「ひまわり 4終焉」


ひまはりの葉の上にある緑色 めうな形はつがふカメムシ


風止みて向日葵めうに静まりて 油汗して我は団扇手


この一本が宇宙ならむ虫 身をゆすり蠢く白き紙魚しみのごときが


花球はなたまの奥にひつしり黒き眼のいたづらめきて弧をなす 種は


モンスターの枯れし下葉は小言好き 誰か居るかにざははとそよぐ


速やかに葉月も流れ カハラヒワのみんな逆立ちひまはりつつく


カハラヒワの太き嘴ややピンク ちゆるると嬉しひまはりの宴


河原鶸ひまはりの種子残しゆく たらふく食べてあとは眠れよ




   「夕涼」


夕まぐれ畳に伏して灯も点けぬ 孤独も良きか月と虫の音


涼風にブラインド揺れ白々と透ける月影 こはどこの国 


どの部屋に行きても窓にこおろぎの囁く夜となる 宇宙ノイズと


満月を見上げその位置描きみる けふ球面に溢るる日光

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