第4章 2012年 その7 野のもの

   「モンステラの意気」


モンステラ出たとこ勝負の葉の形 やぶれかぶれの自由の夢か


文才も美貌もなくば 何をして三十年をわが満たさむや


我が歌はよほど地味らし 共感を呼ぶさへなくて振り捨てらるれ


ともかくも日々懸命に自を責めて 限界までをねじれ咲くまで


もぢずりのきつと小庭に生えくるをねじねじと待つ 忍ぶ心に




   「人付き合い」


流産せし友黙々と腕回し プールについに遠泳二キロ


有明の月なほ高く 南西のドイツの空に8時間の差


日曜日隣家に笑う声あれば お節介にてわがほつと笑む


電話口めんだう気なる息の後ろ さへづり止まぬ孫とふ雲雀




   「野のもの」


いさぎよき赤の花もて道野辺に見回すごとく ふいに立葵


露草の花びらほどの翅をして青蜆蝶あおしじみちょうひとり去りゆく


死の顔は雀も人も遠きこと もどれぬ道をまぶた落として


砂浴びの雀らのうち一羽のみ いびりだされて野垂死にまで


なべて葉は斑入りや良しと 会ひたきは半夏生はんげしょうかな野道のいづこ


野良猫の一生ひとよも登り下りあり 『猫坂』とふを書き残しやる




   「どんな人」


うちのボスこまつたなあが口癖で 部下がそのうち原因排除


出しやばらずお喋りをせず しょうなるか母の教えかなほも縛らる


月も見ず五感使はず パソコンに憑かれし女こそこそ生きる


花束と呼ばんか 鉢に大輪の後生の花の七つもの歓喜


仏桑華ぶっそうげ 風が落とせる一花の初々しきを髪に挿すべし


サイエンスへ アラフォーわれを目覚ませし不思議粘菌 南方熊楠みなかたくまぐす




   「大暑を待つ」


何の木か諸説ある棘 梅雨さなか白き花もつ柚子か金柑


墓掃除しつつ謝る 優しかりし父の怒れる最期の眼差し


お互ひにかかりたる罠なにの罠 夢見心地のはるけきくら


大暑まえめうに涼しく小雨のみ 無くした帽子いくつか浮かぶ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る