第4章 2012年 その5 歌会

   「新しい歌会へ」


特急券無しに済ますは可能かと 貧の危ふさ鈍なる知恵に


東京へアナウンスの声 何語なる「も一度プリーズ」地団駄をふむ


一巡り東京湾のふちをゆく 往路はビル街帰路は羽田へ


海底へチーターしなるごと迷い無き バスにわが運ばれて行く ==句またがり


ふはと浮くリムジンバスのクッションは 駆けゆく虎の背なもかくやと




   「Tokyo」


高速より世界のTokyo眺めゆく 皇居の堀も後ろを覗く


群れとして働き蟻の連係に 作りし都市は夢の実現


奥底の隅田川より幾重にも スカイタワーまで富の集積


高速の高さに新緑湧き出て ビルの窓なる小さき人影


ビル群は身震ひするやに際立ちて銀杏の新芽 街路を飾る




   「あの頃」


外は雨 ややこでありし子のそばに大人の思ひ充たせし春夜


いまさらに性愛の意味諾えり愛する人に 贈る歓び


塚本と聞けば泣きたし 喪ひし子と楽しき日過ごしたる街


布引きの滝の飛沫を浴びし日の手もつながねど 緑滴る


豆粒の点になるまで慕ふ影 愛の証の無かりしを泣く


あの頃の血を吐く歌を夜の雨と推敲すいこうしたり わが生き延びて



           

   「閑暇」


ひとつずつ夏の花種 思案中今年どうやらひまはり蒔ける


クローバーのふと匂ひきて遥けくもタイムスリップ 野遊びひと日


山陰の汽車の旅こそ眠られぬ 窓に果てなく荒波歌ふ


かけ声と出車だしまなじり 忘れ得ぬ昭和三十年のねぷた祭りに


海上を蒼風あおかぜわたる 充ち満ちて無窮の声のあるかのごとし




   「老婆心」


初老われミスドのコーヒー飲みをれば おかはり黙ってもってきてくれる


華麗にも若き歌人の詠む痛み われらは過去にとうに慣れたる


老い人はいささか痛み知るなれど 明日はまた未知をののき歌ふ


散乱の夢とむくろを踏みしだき 軌道はずれず行くやら日本

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