第4章 2012年 その4 大震災を思う

   「過敏」


黒き眼に口笛軽く吹きやるに 淋しきひとを犬も無視する


白足袋の揃ひて待てり 琴爪の幽かに立つる春の波音 ==箏曲「春の海」


まだみつきしか経たぬのにはや倦みて 暦破るも物憂き鼓動


弥生尽 風に抗して樹も我も斜めに構へカフカの線描

                ==フランツ カフカの自画像?




   「春たけなわ」


春を名乗るおおいぬふぐり 大小の白き花らも野辺に目覚めぬ


突風の揺する闇にも春の香は満ちてあるらむ 挽歌直すに


大樹なる紅しだれ梅 古き家に笠をふはりとかざしゐるかの


枝垂れ梅その花籠に捉へられチツチキ啼かむ 目白となりて


花の屋根 十二単の絨毯をの墓詣で卒寿の母の




   「大震災遭遇」


去年こぞ弥生十日の夜に引っ越せる 千葉の煙突明々として


引っ越しの荷の揺るるまま逃げ出して コスモ石油の爆風を受く


絶望の極みに笑ふ 渋滞にいまだ知らずも死の物質を


舌下錠を常備する夫 頑固者のせめてその日の安らかなるを


命生み是非無く奪ふ自然かと 弥生に知れば涙も出でず




   「庭の野草」


かく小さき名も知らぬ草 白や青うす紫の花を秘めをり


カタバミも命の限り咲くものを 黄の色思ひ指を差し止む


雑草を引かむと土にしゃがむ時 微小の花の濃紫映こむらさきは


苧環の種ほど小さき葉の横に一ミリほどの白き花

               ==苧環の新葉は本当に小さい




   「見る間に緑」


花のあといづこも光あは緑 木下こしたの人の何か美し


遅かりし花も緑へ変はりくを珍らかとみる ときを流れて


鳴子百合しげる廃屋たが植えし 葉陰に白き鈴あまた下ぐ


水田は鏡と光り 梨棚の花は揃ひて白く平らか

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