第4章 2012年 その1 あらたまの

   「あらたまの力」


あらたまの満つる光に溶け入らむ 影を揺すりて重心量る


冷気すら快きまで息熱く 太極拳に自他を去りゆく


烏らが車道を低く飛ぶ背なの漲るパワー 翼龍として


落日の富士稜線も オレンジのタワーも照らす赤き満月


跳ね返せそんな先輩無視しろと鬱の子に言う じつと心に ==以前にある時




   「いたわり」


故知らずより生まれしそのえにし天より来しごと 早や戻りしも


唐突に 幼きころの表情の明かりの如く甲斐無く浮かぶ


「あれこれの君の仕草」と詠みかけて 歌とならねど消せぬ言の葉


この雲は定めか否か はらからにかかるもせめて君が手添へよ


秀づればこそのいたはり さりげなく母に向けたる視線忘れず




   「白川の源泉」


白川の源泉といふ深き水 あるとも見えぬほどに透きたる


からたちの棘と思ひて 白秋を歌ひをりしに柚子の木なると


ひとときを老母と過ごせる帰るさの暮るる坂道 「父さん」と呼ぶ


手のかかる母となれども 正月を物忘れして笑ひ合ひて過ぐ


母の手になる花瓶にはすすき穂のさやさや流る いつも窓辺に




   「エネルギー」


小さくも辛夷こぶしは拳握りしめ 沈丁花には負けぬとばかり


馬の瞳に空の映りて脊な震ふ 二本脚らの心読むらし ==題詠「馬」


跳ね回る仔やぎ仔うしの喜びの末は知らねど「遊べよ仔馬」


天馬でも天女でもよし運びてよ 海の藻くずと身はなるとても


塗る程にたるみし肌の手に負へず せめて笑へと強ひるもをかし




   「大寒の雨」


元旦の震度4より癖となり 古家を揺する風も疑ふ


地の揺れか雨の雫か みしみしと鳴るその次を畏み侍る


歯医者にて泣き叫びいゐる幼子よ 小さき喜びあれよ明日は


つひに降る 凍月いてつき巡る間乾きしが大寒の土 静かにも濡る


大寒をまたぎ氷雨の濡らす枝 ヒヨの宿りも川面にかし


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