第3章 2011年 その13 日常

   「初冬の庭」


待ちかねし銀杏も散りて地は黄色 赤く溢れて山茶花すでに


切りも無く顔出す雑草 小春日に莟もつある「あなたはだあれ」


かの人の世には知られで遺したる言の葉いくつ 惜しまるるかも


ネギ人参キャベツと炊かむ昆布出しに 自然の甘さあえて肉なし


日差し得て庭のいのちと過ごせしが 醜き空となりて頭痛す


俯きて草引く耳にたれか来る 靴音めきて固き枯れ葉の




   「日常」


濃き赤の最後の莟開きしが 巻き戻しのごと仏桑華閉づ


陽も澄める部屋の朝ドラ 午後ならば泣くなどせぬを堪え性なき


歩道にて白鶺鴒はくせきれいとすれ違ふ すたすたつつつ行人こうじんわれら


言い交はす「家賃の支払ひ忘るるな」 命ずる人と実行役とで


自死したる娘を理解する術やある 父はさまよふ電子の海に


人間にもの事の意味わかるはず なくば得てして不幸を招く


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