第3章 2011年 その12 記憶と現状

   「冬への観察」


住まい/

灰色の気を美化しよう真っ白い大根を煮る まだまだ我慢だ


冬の蚊の棲みつきてより幾日か 遠慮がちなる羽音オスらし


穏やかに日差しは降るも霜月の雀の仕草 明日は来るやら


平屋建て方位斜めのマッチ箱 陽は四方より魔法を使ふ


北窓に西日は赤く 隣り家の反射光とし東にも差す


自然/

見事にも庭一面のやぶからし 霜に枯るるや名残惜しとも


シベリアの虎の咆哮かくやもと ケーブル揺する冬の切っ先


黄の帽子かぶるセイタカアワダチソウ 疎らに立ちてちかごろ小ぶり


アキアカネその名の由来これなるか 赤の深さよ悲壮なるまで


青白き朝顔すでに抜きたるを なお芽の出でて継子扱ひ


自分/

退屈を知り初めてより引き込まれ 裏目表目寝ねもやらずに ==編み物


歌誌のはや11冊なり来年へ心預けて 暦を集む ==短歌結社の月刊誌


真ん中に突っ立ってみる バス停の小道に刺さる腕組みの影


メモ帳も最後の余白 苅られたる実りの色の残す田の彩




   「近き思い出」


けふの幸こそ忘れまじ 満月を見て交はしたる親子の眸 ==次男と会う


仏桑華ぶっそうげと呼ぶはなにゆゑ 緋の色の最後の心ふたつ開きぬ

 

藍色の冬至前後の沈みたる空の 夕星頼りの光

             

大洗海岸の波 営々と寄するを人ともの言はず見き ==亡き弟と


金木犀匂へるころも夜々母に待たるる身にて いはゆる名月




   「遥かな思い出」


緑山に向かひ手を振る 三人みたりして昼餉を共にしたる嬉しさ

                  ==息子3人と過ごす


墓山に庭石菖ニワゼキショウの淡き海 影か光か頷き浮かぶ


滝道を行く母の背の なだらかに美しかりし去年こぞの秋


末っ子の初めての語は「アナ」なりし 棒を差し込む木の玩具の名


寒の入り 逃げも隠れもできぬまで四方よもの氷の袋小路に


僧ひとり橋のたもとに錫の音の 時雨をつきて耳にはいり来


雪の中 兼六けんろく公園 新婚のそぞろ歩けば縄目正しき

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る