第3章 2011年 その5 慣れる

   「命あふれて」


南瓜の緑と黄に覆はれて 次が待たるる隣人の畠


につくしと花食ひ虫を落としては 赤児のごとき脆さもあはれ


キアゲハの母の見つけしからたちを護りたき我れ 赤児を落とす


母アゲハ次の日にも来 五十ほど柔き葉の上よろばひて産む




   「ただ穏やかな日々を」


今この日 安穏なればあしたもと願へど雲のゆるらに流る 


孤愁すら恵みの日なるにふと浮かぶ 何かに怖れ遠く逃げたし


笑ひ合ひて朝夕過ごす願ひさへ容易ならねば 諦めし数


子と夫に何故に短歌と問はるるを 心ぎりぎり削ぎし残りと




   「外の世界」


ブラインドを透かし眺むる陰影のとぎれとぎれて 人ら束の間


家々より時に喧噪もれくるも 誰かの我慢に崩壊免る


空港へ 涙構はず急ぎしに勇気崩れて葬儀に行かざり


もう自虐やめませんかと言ひくれし人とも会はず 逆縁幾年


海と空 あはひに架かる大橋をひた走るバス色無き世界


濃淡の利休鼠のあはひへと船は消えゆく 吾は水底へ ==東京湾アクアライン


海底に閉じ込めらるる定めかと地震ない怖るるに ふと日の中に出る

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