第3章 2011年 その3 住みつくまで
「庭の爽やか」
引っ越しの残せる痛みかばひつつ野原横切り たんぽぽ元気
鉢のまま運ばれて春 露草の瞳の色は他に無き深さ
イクメンの子の押すバギー 『ライフ』までローズ匂へる生垣沿ひに
越してきたカンナ露草あをあをと さらなる日々へ作る思ひ出
すずかぜに白き山吹 ゴーヤ苗の細きらせんを巻き付けやりぬ
風荒るる枯れ野なりしに
「我が家と呼ぶ」
ふと浮かれ 新所帯めき購へる家具
老年の小さき喜び イエローの書斎と名付けモンステラを置く
ひよつとして夢を叶へし我なるか ガラスの部屋にモンステラある
穏やかに明けたるけふもやがて風 びうぶう唸るガラスの家に
風の凪ぐ午後三時すぎ音も絶え ただ陽の白き
「悪あがき」
短歌とふ一首の独立こそ独自 凝縮されたるため息の花
小説を書くは退屈 詩はどこか放恣 俳句には覚悟の薄し
せめてこの恨み節ならお得意と なけなしの
「問題点」
間違ひはあの分岐点 しかしあのままでも堕落俗物の坂
世を外れ何も要請されぬまま 望みも意気も
どう言へば申し開きがたつものか 神のみ前に怠惰の理由
成し遂げしなく役割も果たさずに 役にも立たず放浪もせず
「死の後ろ姿」
この歌が最期の思惟であらばあれ 歩みの果ての愚言述べたり
もし明日に死の待つとせばこの今を惜しむも愚にて 無念の遅さ
どうだらう老婆あれこれ見つつ行く 終の姿の品定めして
朝一番 赤紫の朝顔の初姿見し バスの窓より
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