第3章 2011年 その2  東北大震災

   「ゆきやなぎ」


針先で突つきたる白 刻々と雪の花こそ春の蕾ら


忘れ雪過ぎたるあした 枝元に目覚めたるかに雪柳の


かにかくに陽は落ちつつに眼裏まなうらのオレンジの色 温し静けき




   「憂慮ばかり」


悲しみの明日の蕾ふるえつつを待つ知らせ 咲かず散りてよ ==散々


千年の震災をなほ生き延びし人等をやがて待つ死は いかに


別れむと幼なの肌に寄り添へば友情の香の 開く心や  ==一歳の孫


一つずつ作りし荷物ひとつまたひとつ ほどきていかなる日常




   「千年の災ひ」


約束の地とぞ思ひて着きし日に 地と海と火と凄まじきまで

                   ==引っ越しの日が東北大地震


千年の災ひなれどたやすくも消ゆる命か 母なる地球に


被災者の言葉の健気 聞くだにも知らず知らずに涙流れ来


カキ菜とふ天ぷらうまかろカキフライの美味なることは承知してるが




   「大移動を果たして」


電話力知力体力積年の我慢力生く 大移動かな


黄ばみたる手紙に母の心配を読む けふもまだ不孝の止まず


歌ふには事実の無惨 音の数三十一の美し気なる


ありさうで突拍子もなき生温き夢の世界へ 昼寝などして


良き過去にあらざりて さて落武者のよろける幅も無き道を見る




   「初めてまみえる景色」


人工の放射能吹く風の地に移りし決意 ガチンコ運命


山稜の見えぬ眺めに棲み着くと 小さき竜巻数秒を舞ふ


渺々と平らなる地に北を指す山の端なくて 迷子の暮らし


町並みは廃屋またはニューホーム小佝痩身 路地に老人


雲の壁つなみかと見ゆ 頭上にはザトウ鯨ののしかかるかに


死にし子の空はいかにぞ冥かりし 玻璃戸はるど危ふきカラつ風に遭ふ

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