第2章 2008年 その3

   「子育て終了」


ドンとくる打ち上げ花火 夕顔は支柱を越えて軽やかに伸ぶ


明日は切るあの赤松に絡む葛 末の子にして支へ合ひしが


遠花火 華やぎのあと轟けり苦し楽しき子育て終はる




   「夏の放心」


クマゼミの必死と競ふ青き青 雲眩くて風ひとつ鳴る


水滴を含みしままの朝風にヨルガオの張る十のアンテナ


嗚呼真白 幾万トンの雲の山ちひさき頭ひとつ生まれぬ




   「九月、それまでの日々」


朝顔のひとつ辛くも拠りて咲く ひまはりの茎立ち枯るる辺に


青空に血の色かざすサルビアか カッと目を剥くあけのペチュニア


かの夏にが見上げしとふ向日葵の育つを見れば悲しかりけり


わが内に今浮かぶこと あの日々に汝が思ひたるそのことならむ


バス停の無人のベンチにメモを書く 仕事帰りに二十分待てば




   「神か科学か」


海中にヒトの生きたる時期あると読みしよりわが潜水泳法


拠るべなき裸のサルは実を求め 草より糸を紡ぎまとひぬ


偶然のひとつ起こりて確定す すなはち事実かく虫を打つ


仕込まれし宇宙の種の育ちしと かく識る世紀に生まれたるかな


粛々と二十一世紀生きてゆく「神」解かれゆく未曾有の日々に


プリンタはギャーティギャーティ声明しょうみょうす 生死無ければ救ひも有らじ 




   「旅の空」


物の理や海碧くして空蒼し 前線の雲は上下に分かつ


深きより隆起せる峰の先端を機窓に眺む 島国とふもの


四国のみ雲に覆はれ山々のくぼむところにダム湖の光る


半島に風車の並ぶ佐多岬 大分までは深き道なり


ここよりの眺め墨絵に描きたる人ぞある 海と久住連山


山ひだに紅葉兆して 延々と高圧電流運ばれてゆく




   「阿蘇五嶽」


一の子の休らふところ仏寝るカルデラ上空 五色の畑地


モダンなる巨人の風車一機のみが風をとらへて大車輪見す


去年こぞの旅に子と巡りしか外輪山 日暮れは去るらむ空港に降る


名をば呼ぶ 心傾け空しき名 空しけれどもわが恃む綱


呼びかくるその名無ければ良平の心も迷はむ ただ塞き上げて ==半田良平「幸木」:みんなみの空に向かひて吾子の名を幾たび喚ばば心足りなむ


子らと居てコスモス畑 幸せの夢の如くに時に埋もれき

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